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河崎秋子さん「夜明けのハントレス」 熊との闘い再び。狩猟を通じ向き合う自分自身

河崎秋子さん

 クマ出没による被害が各地で深刻化している。岩手では、冬眠時期のはずの2月にも人身被害が出たという。そんな中、2024年に明治の北海道を舞台に一人の男とクマの闘いの物語「ともぐい」で直木賞を受けた河﨑秋子さんが、再びクマを書いた。令和の大学生が主人公の「夜明けのハントレス」(文芸春秋)だ。

 「クマ自体は明治から令和になって、巨大化したとか凶暴化したということは恐らくない」。だが、現代を舞台にすることで読み手は、現実と地続きの話だと感じやすくなる。「この作品を読む前と後で、クマ出没のニュースへの接し方がどう変わっていただけるか」を考えたという。

 クマへの恐怖が読者の身近に迫る状況には、「クマの問題が大きくなればなるほど、正しい情報を伝えなければ」。エンターテインメントとしては、クマの怖さを強調した方が、倒したときの達成感を演出できるかもしれないが、「読者ウケを意識して過剰に盛り込むと、正当な恐怖心をそいでしまう気がする。むしろ抑えることを意識した方がいいのかもしれません」。

 研ぎ澄まされた物語からは、クマと対峙(たいじ)する緊迫感が切々と伝わってくる。

 主人公の岸谷万智(まち)は、札幌で平和な大学生活を送っていたが、偶然読んだ狩猟雑誌がきっかけで、狩猟の世界に足を踏み入れる。初めて狩猟を目の当たりにした万智に、ベテラン猟師の新田は言う。〈撃たれる側の動物にしてみりゃ、手前を殺した人間が男か女か、年寄りか若いか、賢いかバカかなんて関係ないよな〉

 万智は、裕福な家庭に生まれ、人目を引く端正な容姿を持っている。それは時に他人から傲慢(ごうまん)さと捉えられ、居心地の悪さにもなっていた。だが、銃を構えて動物と対峙すれば、すべて関係がなくなる。ただ、〈撃つ側の存在が試される〉だけだ。

 そんな狩猟に引き込まれていった万智は、森の中でクマと遭遇することになる。命を撃つことへの葛藤も描かれる。

 「なるべくなら無駄に命を奪わない方がいい、そういった気持ちを持つのは人間としてすごく大事なこと。ただ、殺処分をせざるを得ない状況もある。ベストな正解はないけれど、ベターな正解は現場の人間、そこで生活をしている人間にしか下せないと思う」。ハンターがどのような準備や心構えをしているのか、読者に知ってもらえるよう心がけたという。

 河﨑さんは「クマ専門の作家じゃない」「クマ(の小説)は1年くらい休みたい」としつつ、「人間を書き尽くせることがないように、クマを書き尽くせることもなかなかない」と言う。地元、北海道について調べていくとクマの話に行き当たる。伝承や記録に登場する個性豊かなクマたちへの興味は尽きないようだ。(堀越理菜)=朝日新聞2026年2月25日掲載