パキスタンのじゅうたん買い付け人が、「このミステリーがすごい!」大賞からデビューした。40カ国ほどを旅した犬丸幸平さんが、「最後の皇帝と謎解きを」(宝島社)で書いたのは、国も身分も越えた若者2人の友情だ。
犬丸さんは、1994年生まれ。子どもの頃、世界地図を眺めていた。大学に入ると、バックパッカーに夢中に。アジア、南米、アフリカと様々な国に行った。
就職活動を終えると時間ができ、久しぶりに小説を読むようになった。自分でも書けるかも。究めてみることにした。小説執筆に専念するため、新卒で入った会社も辞めた。以前から興味があった、じゅうたんを買い付ける仕事を自営業でやりながら、小説を書いた。
すると、1920年の中国を舞台に、紫禁城で暮らす清朝最後の皇帝、溥儀(ふぎ)と、日本人絵師の一条剛が城で起こる謎を解く物語が、「このミス」大賞に選ばれた。まだ幼さが残る15歳の溥儀と、正義感の強い一条は、時にぶつかりながらも、友情を育んでいく。
浅田次郎さんの「蒼穹の昴」を読んで、清朝に興味を抱いた。そこで映画「ラストエンペラー」を見てみたところ、溥儀と家庭教師の英国人、ジョンストンの友情に心を動かされた。「バックパッカーをやっていた時に、人種って何なのかという思いが心の中に積み重なっていた。だからこそ、いいなと思ったのかもしれない」
ヨーロッパで、タクシーを予約した時、アジア人だと分かると乗せてもらえなかった。インドではカーストの低い人が虐げられていた。一方で、人の優しさにも触れてきた。ペルーで山登りをした時に、アルゼンチンのカップルと仲良くなった。2人が暮らすブエノスアイレスに行った際に連絡すると、家で料理を振る舞ってくれた。パキスタンの人たちは旅人に親切。道に迷うと送り届けてくれ、取引先の子どもは摘んだ花をくれた。
「虐げられ、差別にあった経験より、親切にしてもらったことの方が記憶に残ります」
読者には、「一番は物語を楽しんでほしい。その後、出会った人を大事にしようとか、ちょっと人に親切にしてみようかなと温かい気持ちになってくれたらうれしい」。
すでに、今後書きたい題材も思い浮かんでいるという。「ほとんどが歴史や人種が絡んだ話。気持ちをぶつけられる題材を書き続けたい」(堀越理菜)=朝日新聞2026年3月4日掲載