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なかむらるみさん「かっこいいピンクをさがしに」インタビュー ピンクに対するまなざしが深まる絵本

『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)より

好きになったり嫌いになったり……ピンクは心を揺らす色

―― おじさんを細やかに観察・取材し、その特性や行動をイラストと文章でまとめた『おじさん図鑑』(小学館、2011年)の作者でもある、なかむらるみさん。『かっこいいピンクをさがしに』は月刊「たくさんのふしぎ」で2024年3月に刊行され、このたび単行本化されました。初めての絵本でピンクを題材にしたのはなぜですか。

 13年ほど前、『おじさん図鑑』を見た福音館書店の編集者さんから、「たくさんのふしぎ」で描きませんかと声をかけていただきました。どんなことに興味があるかを聞かれて、おじさん以外に気になるものとして思い浮かんだのがピンクでした。ピンクへの思いを振り返ると、好きだった時期と嫌いだった時期があって、それがすごく不思議だなと思っていたんです。

 小さい頃の私は、ピンクが大好きでした。幼稚園で友達と一緒に『ももいろのきりん』(福音館書店)のきりんを段ボールで作ったことは、今でもよく覚えています。動物として興味があったわけではなくて、「ももいろ」だからこそ作りたかったんですよね。40年経っても鮮やかに思い出せるのは、色の持つ力なんじゃないかと感じています。

 他にも、キキララのタオルケットは買ってもらえたのに、アニメキャラが描かれたピンクの靴やピンクの水着は買ってもらえなかったとか、バレンタインのお返しにもらったハンカチが大人っぽいピンクの花柄でうっとりしたとか、ピンクをダサいと思っていた時代もあったなとか……ピンクを軸にすると、いろんな思い出が鮮明に浮かび上がってきます。

 イラストレーターの仕事を始めてからは、いつも絵を描くとき、線のあとに最初にピンクを塗るようにしているんです。そうすると画面が生き生きと明るくなって、気持ちも上がります。濃淡や色味の違いでいろいろなピンクがありますが、小さいときはクレヨンのピンクが好きだったり、濃いピンクが好きだった時期もあったりと、年齢によって好みのピンクが変わるのも面白いなと思いました。

―― 絵本の序盤では、かわいいピンクが好きな子どもの一人として、なかむらさんの娘さんも登場しています。

 ピンクの取材を進める途中で娘が生まれました。娘は3歳の頃、頭から足先まで全身ピンクを身に着けるほどピンクが大好きだったので、私は「またピンクー?」と思わず嫌そうな顔をしてしまうこともあって。親になったことで、自分の母がピンクの靴を買ってくれなかったときの複雑な気持ちが少しわかった気がしました。

 子どもが生まれるまでは、取材を通して「かっこいいピンク」ばかり集めようとしていたんですが、かわいいピンクに惹かれる娘と接することで、もっと幅を広げて、多面的にピンクを捉えていかなければと意識を改めた記憶があります。

ピンクはいつから“女の子の色”?

―― 取材はどのように進めていったのですか。

 最初に『ももいろのきりん』の作者、画家の中川宗弥さんと作家の中川李枝子さんご夫妻のお宅を訪ねました。すごく緊張してしまって、実は記憶があやふやなんですが、宗弥さんが「ピンクはクリエイティブな色だよ」とおっしゃったことや、李枝子さんがピンクという言葉に引っかかっているご様子だったこと、「面白い本になりそうだね」と言っていただいて、それならがんばれそうだなと感じたことなどをよく覚えています。

 

『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)より

 その次に、母校である武蔵野美術大学の教授で、色彩計画家として街の色について考えるお仕事をされている吉田慎悟先生にお話を聞きました。日本ではピンクの建物はあまり多くないのですが、それは日本の天候や環境に理由があるようです。吉田先生が「ピンク?」と首をかしげていらっしゃる姿が印象的で、これはテーマとして掘り甲斐があるかもと感じました。

 色覚の特性について、東京大学の大学院で最新の研究をされている河村正二先生にお話を聞いたときは、理解の遅い私を相手に、6時間近くとても熱心に解説してくださったんですが、あまりの難しさに頭が爆発しそうになりました(笑)。

―― ピンクがいつから“女の子の色”として認識されるようになったのか、その経緯についても触れています。

 

『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)より

 平安時代の貴族は、男性もピンクを着ていたらしいんですが、それがいつ、どんな経緯で“女の子の色”になっていったのかは、本を何冊も読んでも曖昧なことばかりで、なかなかわからなかったんです。それで、色名の移り変わりや色彩文化に詳しい國本学史先生にお話を聞きに行きました。

 ピンクは、もともと植物のナデシコを示す言葉として、江戸時代末期の英和辞書で紹介されていましたが、明治時代の西洋水彩画ブームを機に、桃色の絵の具につけられた「ピンク」という色名が広まったそうです。“女の子の色”になっていったのは、1950年代頃のアメリカでの流行が影響しているようで、カラーテレビやカラー印刷が普及する中、大統領夫人が好んでピンクに着飾ったことがきっかけとなったのでは、とのことでした。

ピンクが背負わされた、さまざまな意味合い

―― 冒頭では、ピンクのランドセルを選んだ孫の男の子を心配するおばあさんの新聞投稿記事が紹介されています。

 もし自分に息子がいたら、100パーセントの気持ちで「ピンクいいね!」と言ってあげたいのですが、その一方で、投稿のおばあさんと同じように、周囲から浮かないかと心配してしまうかも、と思う自分もいて。ピンクの色合いにもよるな、とか、せめて黒い縁でもついていれば、なんて思ってしまったり……。

 私の娘は、小学校に上がる前には「ピンクは赤ちゃんの色」と言い出して、薄紫色のランドセルを選びました。2年ぐらいで「薄水色にしたらよかった」と言ってましたけどね(笑)。1年生の間は黄色いカバーをつける学校も多いですし、最近はランドセルカバーもいろんな種類があって流行っているようなので、現実には親が心配するほど子どもたち自身は気にしていないのかなとも感じています。

 

『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)より

―― 最後に紹介されている、ピンクが大好きな純怜(すみれ)ちゃんという女の子の話が一番印象に残っているそうですね。

 縁あって、長野県の保育園に通う純怜ちゃんに会いに行けることになって、いろんなピンクのものを詰め込んだお気に入りのリュックを見せてもらったんです。

 リュックの中に入っていたのは、ピンクのリボンや入園式でもらったコサージュ、使えなくなった携帯電話、おばあちゃんの家にあった小鉢、ストロー、雪見だいふくのプラスチックフォークなど、純怜ちゃんのお眼鏡にかなったピンクのものたち。ピンクが好きという純粋な気持ちが伝わってきて、何でもないものたちがキラキラと輝いて見えました。

 

『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)より

―― ピンクはどうしてもジェンダーと結びつきがちで、甘えや媚び、あざとさの象徴と捉えられたり、性的な意味を帯びたりと、付随する意味合いが過剰な色でもあります。だからこそ、純怜ちゃんのピンクに対するまっすぐな思いがまぶしく感じられたのでしょうね。

 ここまでいろんな意味を背負わされている色って、他にあまりないですよね。子どもから大人まで、ピンクを好きな人はたくさんいるのに、なぜか叩かれがちというか。なんだかピンクが気の毒にさえ思えてきます。

―― 約10年の取材を通して、なかむらさんの中のピンクへの思いは変わりましたか。

 取材すればするほど視野が広がって、すごく解放された感じがします。ピンクと一口に言ってもかなり幅があるということがわかりましたし、ピンクはやっぱりかわいい色で、幸せの色、生命の色、クリエイティブな色、やる気の出る色でもあるなとも感じていて。取材を通して、ピンクをすごく好きになりましたし、より肯定的に捉えることができるようになったと感じています。

なかむらるみさん愛用のピンクのものたち

――「私にとってのピンクはね……」などと対話を促す絵本でもあるので、子どもだけでなく、大人にもおすすめしたいですね。

 この本は、ピンクが好きだったり嫌いだったりと、気持ちが揺らいでいた子どもの頃の自分に読ませたいと思って作りました。ピンクが大好きな子はもちろん、ピンクが嫌いな子や、色に対する感情の変化を感じ始めた子、そして大人の方々にも、ぜひ読んでもらいたいですね。この本を読むことで、みなさんの中のピンクに対する視野が広がったらいいなと思います。