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「独裁者の倒し方」書評 世界の事例が示す民主化への鍵

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月21日
独裁者の倒し方: 暴君たちの実は危うい権力構造 著者:マーセル・ディルサス 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:政治

ISBN: 9784492224359
発売⽇: 2026/01/07
サイズ: 19.2×2.3cm/328p

「独裁者の倒し方」 [著]マーセル・ディルサス

 独裁者という人生。それがどんなものかを理解し、我がことのように考えさせてくれる本だ。そんなもの理解したくない? いや、これが意外と身につまされるのだ。
 アフリカの小国から北朝鮮まで、示される事例は様々だが、一言でいえばその人生は「降りることのできないランニングマシン」で走っているようなものだ。権勢を振るい、私腹を肥やした独裁者も、高齢になれば一線を退きたくなる。しかし多くの独裁者はすでに法を破り、拷問や殺人に手を染めている。権力を手放せば罪に問われ、投獄や死に追いやられるのは必至だ。
 かといって走り続けるのも過酷だ。独裁者を支えるのはエリートや軍人たちだが、人民から搾り取ったカネを彼らに与え続けなければ、いつ寝首をかかれるか分からない。クーデターを起こさないよう軍を弱体化したいが、やりすぎると国を守れない。側近すら本音を語ってくれない。何という孤独とストレス。
 もちろん本書の主眼は読者に独裁者気分を味わわせることではない。独裁者とその体制を理解し、どうすれば倒せるのか、民主化できるかを考えることだ。
 読みながら頭を離れなかったのは戦下のイラン情勢だ。本書いわく「たいていの独裁者は、新しい独裁者に取って代わられる」。まさにその通り、トランプ大統領がめざした体制転換は水泡に帰した。本書には、暴力を伴う体制打倒が民主化につながる確率は6%に満たないという分析もある。トランプ氏は英語で出版された本書をよく読むべきだった。
 国際情勢を考える上で有用な本だが、身近な話として読める部分もある。例えば有能な部下を恐れる独裁者を描いた以下の一文。「忠実に見えるという理由で無能な役人たちを独裁者が昇格させると、政権の上層部は権力にけっして近づくべきでない人だらけになる」。あなたの会社に、そんな社長はいませんか。
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Marcel Dirsus 独キール大安全保障政策研究所客員研究員。政治をテーマにしたニュースレターを執筆。
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柴田裕之訳