ISBN: 9784305710680
発売⽇: 2026/02/27
サイズ: 14.8×21cm/228p
「デジタル時代の妖怪学」 [著]渡部瑞希
先月、「妖怪祭り!」と題するパリの美術館での公演で自作が演奏された際、会場が多様な客層で早々に満席となり驚いた。妖怪は文化の違いを超え、大きな関心を呼ぶようだ。
「見えないけれども、いる」と集団的に感知される不穏な空気感を、漫画やアニメなどの媒体により表象化したものが元来の妖怪であるらしい。
可視化によって、得体の知れないものへの「恐怖心や不安を軽減」する一方、必ずしも実在しないものが現実感を帯び、逆説的に恐怖や畏敬(いけい)を増大させるケースもある。そのからくりを、不可視の可視化に長(た)けたデジタル技術と関係づけながら、民俗学者、外国人妖怪絵師、デジタル記号論者、生物学者など、異文化・異分野のエキスパートたちが各専門的観点から論じてゆく。
デジタル技術が促進するのは、見えざるものの精密な可視化や可聴化だけではない。実在の地名や人物、史実などが織り込まれ、視聴覚に訴えるまことしやかな物語を広く迅速に拡散する。受信者たちが付加する虚実不明の情報もまた多数に共有され、仮想現実は拡張現実となって新たな恐怖を醸し出す。妖怪は今や伝説上の存在に加え、感染症ウイルス、コンピューターのバグ、ネット上の匿名の他者や「炎上」など千変万化の様相だ。
かように流通する過程で、妖怪が対立的存在ではなく、むしろ異質であったはずの人や場所をつなげる力として機能し、共生や社会的包摂、地球環境の保全や世界平和の実現に寄与しうるとの論に得心した。他方、神話に先例があるが、見てしまうことで被るとされる有害な影響が恐怖を惹起す(じゃっき)る近年の事例(「三回見たら死ぬ絵」など)を引いた異論も、一定の説得力をもって先の理解を覆す。
古くて新しい、二重三重に反転する妖怪論は、それ自体が一筋縄ではいかぬ妖怪的多面性をもって変幻自在に私たちの心のありようを映し出す。
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わたなべ・みずき 高崎経済大准教授。専門は文化人類学、民俗学、観光人類学。本書はほか5氏の論考をまとめた。