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平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」 デビュー作にぶつけた大人への抗い、みずみずしい問い

平石さなぎさん

 書きたかったのは「負けざま」だったと、平石さなぎさんは言う。自身も、負けても腐らずに小説を書き続けてきた。第38回小説すばる新人賞を受け、「ギアをあげて、風を鳴らして」(集英社)でデビューをつかんだ。

 1997年に京都府で生まれた。小説をよく読むようになったのは、20歳の頃だった。悩みを自分の言葉にできず、もやもやした気持ちを募らせていた時だった。読書好きの祖母に薦められた桐野夏生さんの作品が、心にぴたりと合った。次第に自分でも趣味のような感覚で書き、新人賞に応募するようになった。

 しばらくは箸にも棒にもかからなかったが、ある時、今後に期待を持ってしまうような結果が出た。このまま続ければ、どこかで運良く形になるかもしれない。意識した途端に、長編が書けなくなった。

 それでも、書きたいという気持ちは収まらず、短編を書き続けた。約5年ぶりに書ききった長編が、今作だった。「きれいな文章を求めすぎていた。今回は、きれいさより熱量をもって、とにかく書き切ろうと」。何度も筆を折りそうになったが、「ここでやめたら、もう一生無理」と自らを奮い立たせた。

 書き上げたのは、小学4年生の女の子2人の物語だ。癒知(ゆち)は、母が信仰する宗教団体で「創父の生まれ変わり」として育ち、同級生からは疎まれている。親の都合で転校を繰り返してきたクミは、癒知と出会う。2人は真っすぐぶつかり、関係を深めていく。

 まだ子どもだが、大人らしい感覚が育つ時期。だからこそ芽生える、みずみずしい問いや、大人への抗(あらが)いが物語を動かす。2人は、自分たちで明日をつかもうと、走り出す。

 「大人に助けられただけでは、きっと癒知は幸せにならない」。現実は大きく変わらなかったとしても、癒知の中にあるものが変わり、納得して進むことが大切だと、平石さんは考えていた。

 「勝つに越したことはないけれど、突き抜けた負け方が好きなんです。負けた後に人が出る。そこが美しいとかっこいいし、そういう風に書きたいなと」。ラストシーンから、物語が立ち上がっていった。

 平石さんも、負けざまは大切にしてきた。落選した賞の受賞作は、悔しくても読んだ。面白いものを、素直に面白いと認められる人になろうと誓い、技術を吸収してきた。そうした積み重ねの先で、ついに作家デビューを果たした。「読んで良かったと思ってもらえるような小説を書いていきたいです」(堀越理菜)=朝日新聞2026年4月1日掲載