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「絵本と子どもと歩いた日々」書評 生活へのまなざしが与える躍動

評者: 古田徹也 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月04日
絵本と子どもと歩いた日々 著者:山脇百合子 出版社:のら書店 ジャンル:日本のエッセー・随筆

ISBN: 9784905015864
発売⽇: 2026/03/03
サイズ: 18×1.2cm/95p

「絵本と子どもと歩いた日々」 [著]山脇百合子

 『ぐりとぐら』や『けんた・うさぎ』など、数々の名作で知られる画家・絵本作家の山脇百合子が、幼少期からの暮らしや思い出を綴(つづ)ったエッセイ集。彼女の絵がなぜこれほど魅力的なのか、時代も国境も越えてなぜここまで皆を引きつけるのか、本書を読んでよく分かった気がする。
 面白いお話なら、その世界を「最後の一滴まで」味わいたい、と彼女は言う。お話の絵を描くことは、その貪欲(どんよく)な姿勢の表れだ。また彼女は、挿絵の依頼を受けるときのことをこう表現している。原稿を渡されるのは、おいしそうな料理や大きなお菓子をそっくりそのまま一番に差しだされて、「好きなところをたっぷり一切れおとりなさい、と言われるみたい」だと。そうか、私たちが挿絵を味わうことは、その贅沢(ぜいたく)な一切れのお相伴にあずかることなのだ。
 彼女の言葉はどれも、ユニークでありながら上滑りしていない。日々の積み重ねのうえに、確かな感触をもって発せられている。絵も同様に、学校で教わるたぐいの技巧をなぞるようなものではなく、地に足がついている。実際彼女は、小物も、草花も、動物も、実物をとことんよく見たうえで描く。写生できない動物は描かない、という徹底ぶり。『ぐりとぐら』に描かれたエプロンや鍋やボウルが、母の台所に現にあったものだという事実には驚いた。
 彼女は、作家や編集者と根気よくやりとりを繰り返しつつ、自分で納得のいくものが描けるまで、何度でも描き直す。子育てや家事との兼ね合いや、仕事の時間の確保に苦労して、それでも、その生活の空間から確かに彼女の絵は生まれ、いまも息づいているのだ。
 本書にちりばめられた絵は、見れば見るほど、いまにも動き出しそうだ。それも不思議ではない。私たちは彼女の絵を見るとき、ひとつひとつに深く込められた彼女のまなざしや時間ごと受け取っているのである。
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やまわき・ゆりこ 1941年生まれ。画家、絵本作家。実姉の中川李枝子との『いやいやえん』『ぐりとぐら』など。2022年没。