映画「藁にもすがる獣たち」成宮寛貴さんインタビュー ポップな不良警官役で再発見した芝居の面白さ
――原作とはラストを含めて異なる部分も多く、よりエンターテインメント性の高い作品になっていると感じました。原作や脚本を読んだ時は、どんな印象を受けましたか?
僕は原作を読んだ時よりも、映画の脚本はかなりライトでポップな作品になっているなと思いました。「今こういう映画があったら面白いな」と感じるような仕上がりで、実際に完成作を観ても、そのスピード感には驚きましたね。
――良介は、裏社会と繋がりを持ち、ヤクザからの多額の借金を抱えた不良警官ですが、どこか人間らしい愛嬌も感じました。その人物像はどのように作り上げたのでしょうか。
登場人物の中では、不良警官ではあるが、人間味がとてもあります。もちろん、ヤクザから借金をしてしまうような危うさはあります。でも本人は危険だということもちゃんと分かっているんです。そのうえで、愛する女性が何よりも優先になってしまう。
だからこそ、目の前の言葉や感情に突き動かされてしまうところがあるんですよね。危険だと分かっているのに動いてしまう危うさと、人間らしさが同居している人物だと思っていました。そこがかわいらしさにもつながると思ったので、演じる時は少しワイルドさを足しながら、どこかやんちゃな雰囲気も意識しました。40代になって、こういう少しやんちゃな男を演じてみたいという思いも以前からあったので、最後まで楽しく演じることができました。
――良介が借金をしているヤクザ・郷田組の親分・郷田(岩松了)とのシーンも多かったですね。
岩松さんとは18年ぶりくらいの共演だったのですが、本当に変わらず素敵な方でした。
久しぶりの映画だったので、知っている方が現場にいてくれる安心感もあり、親分が岩松さんで本当に良かったです。
郷田さんも含め、作中ではみんなとんでもないことをしているんですよね。でも、どのキャラクターもどこか人間らしくてかわいらしいんです。そこがこの作品の魅力なんじゃないかなと思っています。
――映画の後半で、良介がタバコを吸いながら100円を拾った後、全力疾走する姿も印象的でした。
実はあのシーン、最初の台本にはなかったんです。撮影前に城定監督やプロデューサーと打ち合わせをしている中で「良介という人物の表現として、何かもう一つ象徴になるような場面が欲しいよね」という話になったんです。そこから「100円を拾う」というアイデアがその場で生まれました。
作中、良介はお金に振り回され続けます。人生を大きく狂わせるほど、お金というものに執着してきた人物です。だからこそ、100円を拾うという本当に些細な出来事が、逆にお金に支配されてきた人生の滑稽さや、人間らしさを象徴しているように感じました。くだらない出来事なんだけれど、そのくだらなさがすごく良介らしくて、僕自身、とても好きなシーンになりました。
走るシーンも、僕は最初、少し余裕のある走り方をしたのですが、監督から「ここは全力疾走がいい」と。その一言で、芝居のニュアンスが変わりました。完成した作品を観てみると、あの必死に走る姿があるからこそ、100円を拾うシーンもより印象深くなった気がしています。現場での会話から芝居が変わっていく瞬間は、本当に映画ならではだと思います。
――1億円の入ったバッグを巡り、鈴鹿央士さん演じる大学生YouTuberや、森七菜さん演じる謎めいた悪女など、強烈な個性を持つキャラクターたちが激突します。エリンギ役の青木マッチョさんとの映画館バトルはハラハラしながらも思わず吹き出しそうになるコミカルさもあって印象的でした。
あのシーンは、この作品の空気感を決める大事な場面だったと思っています。作品全体がポップで、どこかクスッと笑える雰囲気なので、アクションだけがかっこ良く決まりすぎても違う。なので「強いヒーロー」ではなく、どこか情けなくて必死にもがいている感じを意識しました。なにせ、相手が青木マッチョさんですから、どう考えても勝てない(笑)。だったら、その状況を逆に面白く見せられたらいいなと思っていました。
――映画館でのアクションシーンも迫力がありました。
撮影では閉館した映画館(丸の内TOEI)を使わせてもらえたので、それだけでもテンションが上がりました。スクリーン前の座席が3列分くらい吹き飛ばされるシーンがあるのですが「これはスタントかな」と思っていたら、僕がやることになって(笑)。撮影後は足があざだらけでした。青木マッチョさんはラグビー経験もあり、ある程度は加減してくれているんですけど、それでも本当に強かったですね。
――アクションの見せ方にも工夫があったのでしょうか。
この作品はシリアス一辺倒ではないので、少し情けなかったり、必死さが伝わったりするほうが作品らしいと思ったんです。
途中で良介がエリンギに唾を吐く芝居なども、その場で思いついて監督に相談しながら入れました。現場では「こうしてみたい」「これも面白いかもしれない」と、その瞬間に浮かんだことを監督に提案することも多かったです。そういう時間はとても楽しかったですね。
――今回の作品を通して、俳優として得たものはありましたか。
年齢を重ねると、台本を読んだ時点で完成形がある程度見えてしまうことも増えてくると思うんです。でも今回は「現場だからこそ生まれるもの」が本当にたくさんありました。台本には書かれていない空気やアイデアを、その瞬間にキャッチして楽しむこと。それは忘れてはいけないなと改めて思いました。
今作では不良警官という役だったので、声も少し変えたり、渋さを加えたりと新しい挑戦もできましたし、こういう少し悪くて目が離せない役はまたぜひ演じたいですね。
――観客の方にはどんなところに注目してほしいですか。
この映画に出てくる人たちは、みんな自分一人の力ではどうにもできない状況に追い込まれています。なので、きっと誰かに必ず感情移入できると思うんです。「自分にもこんなことが起きるかもしれない」、そんなリアリティもありながら、キャラクターはみんな個性的で魅力的です。視点を変えて何度観ても、新しい発見がある作品になっていると思います。
――以前ご登場いただいた際、定期的に読む本としてパウロ・コエーリョの『アルケミスト』を教えていただきましたが、最近読んだ本やおすすめの作品を教えてください。
実は、僕はそんなにたくさん本を読むタイプではないんです。それでも昔から好きなのが、村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』です。現実と幻想が交錯する世界観や、不思議な感覚がすごく好きなんですよね。映画化されるならぜひ出てみたいと思うくらい、大好きな作品です。最近は久しぶりに本屋さんへ行くようになって、村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』を買いました。以前読もうと思って途中で止まってしまった作品なので、今度はちゃんと最後まで読んでみたいなと思っています。あとは舞台で演じたこともあるので、三島由紀夫さんの作品も挑戦してみようと『金閣寺』も改めて読んでみようと思っています。
――成宮さんが本から得るものとは?
本が好きな理由は、自分のペースで読めることです。途中で立ち止まってもいいし、気になったところを何度も読み返すこともできる。「この一文はどういう意味なんだろう」と考えながら、自分の中で世界を広げていけるところが面白いんです。
今は映像で情報がすぐ入ってくる時代ですよね。もちろん映像には映像の良さがありますが、本には自分の想像力を使って世界をつくる楽しさがある。その時間は、今だからこそ大切なんじゃないかと思っています。