紀伊國屋じんぶん大賞2021 読者と選ぶ人文書ベスト30が決定 ブックフェアも開催中
記事:じんぶん堂企画室
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>じんぶん大賞の選考委員をつとめる書店員さんによるコラムはこちら
(デヴィッド・グレーバー・著、酒井隆史・訳、岩波書店)
やりがいを感じないまま働く。ムダで無意味な仕事が増えていく。人の役に立つ仕事だけど給料が低い――それはすべてブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)のせいだった! 職場にひそむ精神的暴力や封建制・労働信仰を分析し、ブルシット・ジョブ蔓延のメカニズムを解明。仕事の「価値」を再考し、週一五時間労働の道筋をつける。『負債論』の著者による解放の書。(岩波書店ホームページより)
選考委員・井村直道さんの推薦コメント
この世の中に本当にどうでもよい仕事は存在するか?『負債論』の著者によるこれまでありそうでなかった「どうでもよい仕事」についての画期的な論考。世界中のブルシット経験談に基づき炙り出される経営管理主義という虚構のシステムを描いて見せた本書は、間違いなくどうでもよくはない、重要な指摘をなしている。
>社会に欠かせない仕事と、役に立たない仕事 「仕事」の意味を考える3冊 紀伊國屋書店員さんおすすめの本
(斎藤幸平・著、集英社)
人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。それを阻止するためには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。いや、危機の解決策はある。ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!(集英社ホームページより)
選考委員・大籔宏一さんの推薦コメント
エコマルクス主義になじんだ人もなじめなかった人も、先入観はひとまずとっぱらってみてほしい。左であれ右であれ、資本論と名の付くものに対する先入観も、ひとまずとっぱらってほしい。社会思想の豊かな可能性を全身で感じてほしい。
>『人新世の「資本論」』斎藤幸平さんインタビュー マルクスを新解釈、「脱成長コミュニズム」は世界を救うか(好書好日)
(読書猿・著、ダイヤモンド社)
本書は正体不明、博覧強記の読書家であり、独学の達人である読書猿が書いた「勉強法の百科事典」です。ギリシア哲学から最新の論文まで、あらゆる「知の先人」から学んだ内容を、著者独自の視点で55の技法にまとめました。本の読み方、挫折の乗り越え方、時間の作り方…勉強はこの1冊でOK!独学者のバイブル誕生。(ダイヤモンド社ホームページより)
選考委員・野間健司さんの推薦コメント
分野を選ばない本年の必読書だが、諸々の学び支援ツールの基盤にある人文知の偉大さにも目を開かされる。「独学は孤学ではない」、大冊ながら個々のモジュールは極めてリーダブルな本書から入って「巨人の肩に乗る」人々が続くことを願う。
>「独学大全」読書猿さんインタビュー 学ぶとは、生い立ちや境遇から自由になる最後の砦(好書好日)
(熊代亨・著、イースト・プレス)
現代人が課せられる「まともな人間の条件」の背後にあるもの。生活を快適にし、高度に発展した都市を成り立たせ、前時代の不自由から解放した社会通念は、同時に私たちを疎外しつつある。メンタルヘルス・健康・少子化・清潔・空間設計・コミュニケーションを軸に、令和時代ならではの「生きづらさ」を読み解く。(イースト・プレスホームページより)
選考委員・中島宏樹さんの推薦コメント
現代的な「自由」や「多様性」からはみ出さないよう、角を削られヤスリにかけられ彫琢され続ける、綺麗で真面目で生きづらいこの社会。過去の称揚でも現代の追認でもない、現実の私たちの生きづらさに寄り添える優しい未来へ向けた思索の書。
>熊代亨さん「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」インタビュー しんどさの根、見つめる(好書好日)
(近内悠太・著、NewsPicksパブリッシング)
最有望の哲学者、「希望」のデビュー作。「仕事のやりがい」「生きる意味」「大切な人とのつながり」―。なぜ僕らは、狂おしいほどにこれらを追い求めるのか?どうすれば「幸福」に生きられるのか?ビジネスパーソンから学生まで、見通しが立たない現代を生き抜くための愛と知的興奮に満ちた“新しい哲学”の誕生!(アマゾン商品内容説明より)
選考委員・小山大樹さんの推薦コメント
日常生活の中にある私たちに、現実の社会とはかけ離れたような不思議な気分を呼び起こす贈与論。その多様な論点を、サンタクロースや認知症の母親、『テルマエ・ロマエ』など日常的なシーンを媒介にして整理し、資本主義の修正を図る好著。環境破壊や分断を生み出す資本主義を「解体」するという勇み足ではなく、「すきまを埋める」ものとして贈与を位置づけるバランス感覚にセンスを感じます。
(馬部隆弘・著、中央公論新社)
中世の地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将のリスト、家系図......。これらは貴重な史料であり、学校教材や市町村史にも活用されてきた。しかし、もしそれが後世の偽文書だったら? しかも、たった一人の人物によって創られたものだとしたら――。椿井政隆(一七七〇~一八三七)が創り、近畿一円に流布し、現在も影響を与え続ける数百点にも及ぶ偽文書。本書はその全貌に迫る衝撃の一冊である。(中央公論新社ホームページより)
選考委員・生武正基さんの推薦コメント
偽書とか歴史好きにはたまらない内容。が、本書を教訓としなければならないのは現代社会とそこに生きる我々。人間どうしても自分たちに都合の良いことに無批判に飛びつきがち。騙そうとする人も、騙されてしまいたい人もいつの時代にもいる。
>「椿井文書」書評 求められる歴史 次々に「証明」(好書好日)
(ルース・ベネディクト・著、阿部大樹・訳、講談社)
日本人論の「古典」として読み継がれる『菊と刀』の著者で、アメリカの文化人類学者、ルース・ベネディクトが、1940年に発表し、今もロングセラーとなっている RACE AND RACISMの新訳。(講談社ホームページより)
>東京・田原町の書店「Readin'Writin' BOOKSTORE」(リーディンライティン ブックストア)店主の落合博さんおすすめの人文書
(大塚淳・著、名古屋大学出版会)
統計学は実験や臨床試験、社会調査だけでなく、ビッグデータ分析やAI開発でも不可欠である。ではなぜ統計は科学的な根拠になるのか? 帰納推論や因果推論の背後に存在する枠組みを浮き彫りにし、科学的認識論としてデータサイエンスを捉え直す。科学と哲学を架橋する待望の書。(名古屋大学出版会ホームページより)
選考委員・野間健司さんの推薦コメント
「データサイエンス」時代だからこそ、統計学をツールとして使うだけでなく、その正当化の基盤を理解する意味がある。ベイズ主義vs頻度主義から「深層学習」「因果推論」まで、統計学的思考法を通してヒューム以来の哲学の根本問題に触れる展開がスリリング。
(大山顕・著、ゲンロン)
自撮りからドローン、ウェアラブルから顔認証、ラスベガスのテロから香港のデモまで、写真を変えるあらゆる話題を横断し、工場写真の第一人者がたどり着いた圧倒的にスリリングな人間=顔=写真論!(ゲンロンホームページより)
選考委員・中島宏樹さんの推薦コメント
スマホで自撮り。それは遠近法という近代の「発明」によって私たちが失った、人間本来の世界の捉え方を取り戻す自然な営みではないだろうか。「時間」や「記憶」や「私」に関する21世紀の認識論は、今あなたが手にしているスマホに秘められている。
(東千茅・著、創元社)
生きることの迫真性を求めて、大阪の都市から奈良の里山へ移り住んだ若き農耕民が構想する、生き物たちとの貪欲で不道徳な共生宣言。一般に禁欲や清貧といった観念に結び付けられている里山を、人間を含む貪欲な多種たちの賑やかな吹き溜まりとして捉え直し、人間と異種たちとの結節点である堆肥を取り上げながら、現代社会において希釈・隠蔽されている「生の悦び」を基底から問い直す。(創元社ホームページより)
選考委員・池田匡隆さんの推薦コメント
"清貧"や"貧欲"と結びつけられる里山生活を否定し、自然や異種を美化しすぎず、むしろ欲望を持ち堕落(腐敗!)を追求することで悦びを得、生きながらにして堆肥になる…コロナ禍という未曾有の事態で、東さんの人生哲学は輝いて見える。
>骨を折ることができる豊かさ 『人類堆肥化計画』刊行に寄せて
>東千茅×吉村萬壱「極悪対談 生前堆肥になろう」『人類堆肥化計画』刊行記念
日時:2月1日(月)~28日(日)
場所:紀伊國屋書店全国67店舗
読者や受賞書籍の翻訳者によるコメントを掲載した小冊子(「キノベス!2021」と共同)が、店頭で無料配布されています。人文書の「今」がわかる一冊として参考になるはず。小冊子は紀伊國屋書店の特集ページでダウンロードもできます。