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競技にかけた20年をぶつけて東京五輪でメダルを 重量挙げ・三宅宏実さん(後編)

文:熊坂麻美、写真:鈴木静華(競技写真は©朝日新聞社)

 オフの時間は、『キングダム』などの漫画や本を読み、息抜きをしているという、三宅宏実さん。2020年の東京オリンピックで、ロンドン、リオデジャネイロ大会に続くメダルの獲得を目指している。

>「キングダム」の魅力を語る前編はこちら

 リオでは、「自分史上最強のケガ」という椎間板ヘルニアに苦しみながらも、土壇場で巻き返して銅メダルに輝いた。最後の試技のあと、バーベルをいとおしそうに抱きしめた姿が印象的だった。

 リオの後は、腰の治療もかねて1年ほど休養。そして昨年11月、全日本女子選抜選手権で実戦に復帰し、優勝を果たした。その時の181キロという記録は自身が持つ日本記録からは遠いものの、試合勘を取り戻したと、三宅さんは振り返る。「久しぶりの試合ですごく緊張しました。記録はまだまだですが、万全とはいえない状態で勝てたことが自信になりました」

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 ブランクを経ての優勝は、腰のケガを「チャンス」と捉えて見直した、食事とトレーニングの成果の表れでもあった。それまでは「何気なく摂っていた」という食事を、栄養士の指導のもと、脂質を1日60gに抑えながら35品目の食材を摂ることを心がけ、タンパク質に含まれる疲労回復や筋肉維持などを助けるアミノ酸の種類にも意識を向けるように。食事と真剣に向き合うようになって、体と食のつながりを肌で感じられるようになった。

 「食べる量は増えたけど、体重は変わらずにパワーがついた感じです。食事でこんなに変わるのかと、すごくおもしろくて。それに、ご褒美で甘いものを食べた時の『しみわたり感』が半端ない(笑)。食のありがたさを感じますね」

 練習はバーベルを使ったトレーニングに代わり、体幹を鍛える筋トレがメインに。「完治はしない」という腰に負担をかけないためにも、強い体幹が不可欠だという。「地味だけど、バーベルを上げるよりはるかにきついんですよ!」。そう言って、普段やっているトレーニングを次々に実演してくれた。腹筋全体を鍛えて体幹を固定する力を養うプランクなど、バリエーションを変えて何セットもこなす。

 練習が休みでも、筋トレにオフはない。「継続が力になることを、私はこれまでの経験で知っています。続ければいいことが待っていると信じているから、栄養士さんやトレーナーさん、みんなが支えてくれるから、心が折れないんだと思う」

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 ウエイトリフティングを始めて18年目、いま32歳。腰の状態も含め、自身の体の変化や若い選手の台頭に、不安がないわけではない。それでも、2年後に待つ“いいこと”の舞台が東京であることが、何よりのモチベーションになっている。「オリンピックは4回経験しているけど、やっぱり異国のものという印象が強いんです。だから、自分の国で開催するオリンピックをどうしても経験してみたい。次が東京オリンピックじゃなかったら? とっくに引退してますね」

 3年前から、所属する企業「いちご」のウエイトリフティング部の選手兼コーチとして、後輩の佐渡山彩奈選手の指導にもあたる。技術面のコツや感覚的な部分をわかりやすい言葉で伝えようと思案するなかで、新たな気づきを得ることもあるという。ちなみに佐渡山さんは、三宅さんにおもしろい漫画を教えてくれるレコメンダーのひとりでもある。「彼女からはいろいろな意味でいい刺激をもらっています。一緒に頑張って、東京オリンピックに出場できたら」

 持ち上げるバーベルの重量を競うウエイトリフティングは、シンプルなパワー競技のようでいて、三宅さんいわく「繊細で奥が深いスポーツ」だ。自分の体重の倍以上もある重さのバーベルを頭上まで持ち上げるには、「最短距離を行く技術」が重要。力任せ、ではないのだ。

 「バーベルを体に引き付けながら、いかに無駄なく最短コースで上げるかがポイントです。ほんの数ミリでも軌道がずれれば、余分な負荷がかかって上がらなくなることも。これが難しいところであり、おもしろいところです。でも、最後はやっぱり気持ち。少しでも弱気になると絶対に上がらないですから」

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 オリンピックで勝つには、その精神力に加えて調整力がカギを握る。自己管理不足でコンディションをつくり切れなかったというアテネと北京を経て、万全で臨んだロンドンで銀メダルを獲り、リオでは腰の痛みと闘いながら気持ちで銅メダルを掴んだ。「出場回を重ねるたびに、闘い方を学ばせてもらっている」と三宅さん。「まずは、大きなケガなくオリンピックに出場することが目標。そして、自分の力をピークにして本番の舞台に立つことができれば、まだまだやれると思っています」

 穏やかな口調ながら言葉の端々に、鍛錬と実績を重ねたベテランの自負が覗く。さらに、監督である父・義行さんには、「必ず結果を出させてくれる」と、絶対の信頼を寄せる。東京オリンピックを目指す道に、もし懸念があるとすれば――。「また婚期を逃すこと、かな(笑)。不器用でひとつのことしかできないから、オリンピックに挑戦するごとに婚期が遅れちゃう。でも、やっぱり東京オリンピックは特別。これまでの競技人生をぶつけて、全力で挑戦していきたいです」