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重量挙げ・三宅宏実さんインタビュー(前編) 漫画「キングダム」を語る

原泰久「キングダム」(集英社、既刊50巻)

 「ウエイトリフティングのことを考えない日は、1日もありません」

 練習の休憩時間に、まっすぐな瞳でそう話してくれた三宅宏実さん。集大成として挑む東京オリンピックを見据えて練習に臨む毎日の中で、つかの間、心を緩ませてくれるのが、漫画を読むひととき。周りからすすめられた作品を「とりあえず」読んでみることが多いというが、「一度ハマると最後まで突き進みたい性格」。原泰久さんの『キングダム』は、読んですぐに吸い込まれるようにハマってしまったという。

 同作は、春秋戦国時代の中国を舞台に、天下の大将軍を目指す少年・信と、のちの始皇帝となる政の成長と活躍が描かれる。キャラクターの個性はもちろん、戦いを通して浮かび上がるそれぞれの美学やドラマが多くの人の心をとらえ、コミックスの累計発行部数が3500万部を突破した。実写版の映画化も決まった大ヒット作だ。

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 「3年くらい前、高校時代の友だちに『すごく面白いから!』とすすめられたんです。それで世界選手権のときに、1~3巻だけ持っていって読んだら、面白すぎて続きが気になって気になって(笑)。帰国してすぐ、その時出ていた最新刊まで一気に読みました。史実を基にしているんですけど、ストーリーも読みごたえがあるし、登場人物がみんな本当に魅力的。主人公の信が、戦いを重ねるごとに強く成長していく姿、仲間と友情を育んでいく姿にぐいぐい引き込まれます」

 なかでも三宅さんが好きなキャラクターは、王騎将軍。圧倒的な武力と知略を備えた「六大将軍」のひとりで、ムキムキの体にぶ厚い唇、オネエ言葉という異彩も手伝い、キングダムファンの間でも人気が高い。「王騎将軍は風貌や話し方はちょっと変わっているんですけど(笑)、すごく男気があって愛が深い人。信の素質を見抜いて試練を与えて導いていく、そのやり取りがいつも面白くて印象的なんです」

 忘れられないシーンがある。戦で致命傷を負った王騎将軍が信とともに馬で走り、死地を脱する場面。敵兵を蹴散らしながら、王騎将軍が信に語りかける。

 (中略)目にするものをよォく見てみなさい。敵の群れを。敵の顔を。そして味方の顔を。天と地を。これが将軍の見る景色です 『キングダム』16巻より

 「王騎将軍はそれまでの戦いでもずっと、“将軍のあるべき姿”を信に見せてきていて、最期に託したこの教えもかっこよくて。もう、ジーンときました」

 兵を率いることとは。戦うこととは――。信や政が乱世を奔走し「強さの真理」を掴んでいく世界に、三宅さんは自身が全力を注ぐ競技を、少し重ねていた。

 「将軍の力が強くても、それだけでは戦に勝てないんです。将軍と兵の信頼関係が強いほど、お互いを思い、鼓舞するチームワークで力が何倍にもなる。その結束力で、個の力や数で劣る相手を倒すこともできる。ウエイトリフティングは個人競技だけど、私の力だけではどうにもなりません。監督やトレーナーをはじめ、たくさんのサポート者がいて初めて舞台に立てる。みんなの支えや思いが大きな力になるところは、少し通じるのかな、と」

 最新刊が出るのがいつも待ち遠しいという『キングダム』同様に、夢中になっている作品がもうひとつある。韓国人作家パク・テジュンさんの作品で、漫画アプリ「XOY」で翻訳掲載されている『外見至上主義』だ。冴えない容姿でいじめられっ子の主人公・蛍介(けいすけ)が、ある日超絶的なイケメンのもう一人の自分を手に入れ、以前の姿の自分と昼夜交代で二重生活を送りながら、“ブサイク”と“イケメン”両方の視点で、さまざまなことを学んでいく。

 「世の中は見た目がすべてなの?」「いやいや、やっぱり大事なのは中身でしょ」

 そんな自問自答を繰り返しながら、スマホをスクロールする指が止まらなくなった。時間を忘れて読み続け、待ち合わせに遅れたり電車を乗り過ごしたり。「生活に支障が出るほどおもしろくて、困ってます」と三宅さんは笑う。「すごく考えさせられるところもあるし、イケメンの蛍介に恋心を抱いているような男友達がいたり、だんだん女子たちがイケメンじゃない方の蛍介の内面に惹かれ始めたりして、とにかく目が離せないんです」

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 こうした漫画を教えてくれるのは、最近はもっぱら若いチームメイトだ。「自分では選ばない」という恋愛もの『俺物語!!』(原作・河原和音、作画・アルコ)でキュンとして、強すぎてワンパンチで敵を倒してしまうゆるい戦闘もの『ワンパンマン』(原作・ONE、リメイク版の作画・村田雄介)で笑って脱力する。さらに漫画だけではなく、時間を見つけて読書も楽しんでいる。昔から好きという東野圭吾さんや柚木麻子さんの小説から、自己啓発書や経営書まで、手に取るジャンルは幅広い。

  「夢中になって没頭できる時間がすごく好き。純粋に楽しんでリラックスできるし、経営の本だったら、目標を立て方だったり達成へのアプローチだったり、ウエイトリフティングに生かせることもけっこう見つかるんですよ」

>後編「競技にかけた20年をぶつけて東京五輪でメダルを」はこちらから