「私にはいなかった祖父母の歴史」書評 消えた存在、亡くしなおす過程
評者: 円城塔
/ 朝⽇新聞掲載:2017年09月24日

私にはいなかった祖父母の歴史 ある調査
著者:イヴァン・ジャブロンカ
出版社:名古屋大学出版会
ジャンル:社会・時事・政治・行政
ISBN: 9784815808792
発売⽇: 2017/07/28
サイズ: 20cm/371,39p
【アカデミー・フランセーズ・ギゾー賞(2012年)】【歴史書元老院賞(2012年)】【オーギュスタン・チエリー賞(2012年)】これは殺人捜査ではなく、生成の行為だ−。歴…
私にはいなかった祖父母の歴史 [著]イヴァン・ジャブロンカ
著者は歴史家である。
ホロコーストで父方の祖父母を亡くしている。それは著者が生まれる前のできごとだから、亡くしたというより、もともといなかったという感覚がある。
祖父母といっても、高齢者ではない。二人は三十歳前後で、幼い子供たちを残して殺されたのだ。
著者は、職業的な歴史家として、その二人の歴史の調査をはじめる。
膨大な公文書をあさり、同時期に近隣にいたことが判明した人を訪ね、その親戚たちに話をききにいく。幸いにも、まだ寿命を保っている人々がある。生きていても語ることができない人々があり、死んでいるために語ることができない人々がある。
調査は、著者が祖父母の存在を呼び戻し、亡くし直す過程ともなる。調査は絶滅収容所で終わりを迎えることがわかっている。著者にも、彼らを収容所から助け出すことはかなわない。その存在をわずかに掘り起こし、失うことができるだけである。