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谷崎由依「囚われの島」書評 息づく丹後の地霊

評者: 原武史 / 朝⽇新聞掲載:2017年08月06日
囚われの島 著者:谷崎 由依 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784309025773
発売⽇: 2017/06/13
サイズ: 20cm/286p

囚われの島 [著]谷崎由依

謎めいた小説だ。第一部と第三部は現在の東京が、第二部は昭和初期の京都府丹後地方にあるとおぼしき村が主な舞台となっている。第一部、第三部と第二部をつなぐのは蚕である。
 主人公の由良という女性の名前は丹後の由良川に通じる。流域には蚕都と呼ばれた綾部がある。綾部は大本教団の開祖、出口なおが筆先を書き続けた町。蚕の神のいる若狭湾の島が出てくるのも、単なる虚構には見えない。第二部の文章はそれ自体が筆先を思わせるほどに神々しい。
 由良は東京のマンションで蚕を飼う盲目の調律師と出会い、彼の部屋で「この国でいちばんの大都会の、ほんとうの姿は、森」だと感じる。明示こそされないが、森に囲まれた皇居内で蚕を育てる皇后の姿が浮かぶ。第三部では調律師に代わり、視力が失われた由良が蚕を育てている。大本教団は昭和初期に弾圧され、蚕糸業も衰退したが、丹後の地霊は由良の身体のなかに息づいている。