インタビューを音声でも!
好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、古賀さんのインタビューを音声でお聴きいただけます。以下の記事は音声を要約・編集したものです。
エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』
この本は子ども同士の友情の物語ですが、学校の寄宿舎で、すごく尊敬されている先生との交流であったり、学校の近くにホームレス的な生活をしているおじさんのことをみんな大好きだったり、いろんな子どもたちと大人の、本当に美しい交流が描かれています。思春期の子どもってやっぱり「大人なんて信じられない」という気持ちが少なからずあると思うんですけど、信じるに足る大人というのはちゃんといるんだということを教えてくれる物語としてお薦めしたいですね。
登場人物も多い群像劇なので、最初の5ページ、10ページは苦労するかもしれませんけど、そこを乗り越えるとどんどん面白くなるので、ぜひ頑張って乗り越えて欲しいと思います。
太宰治『パンドラの匣』
太宰治というと、みんなやっぱり『人間失格』から入ると思うんですよね。もちろん素晴らしい作品なんですけど、そこで太宰治をやめてしまうと、暗くてエゴイスティックで鬱々とした人が読むというイメージが残ってしまうかもしれない。実は太宰治の青春小説は、こんなに心がきれいな人がいるんだろうかというぐらい、短編でも美しい物語がいっぱいあるんです。その代表と言えるのがこの『パンドラの箱』と、同じ文庫に収録された『正義と美学』だと思います。
中学生だったら、自分はなんで勉強するんだろう、なんで高校受験するんだろう、どうして大学に行くんだろうと、勉強についての悩みはたくさんあると思うんです。もしかしたら考える糸口が書いてあるのではないかとも思っています。
ルイス・サッカー『穴』
少年が主人公の冒険小説ですけど、とにかく面白い。若干ニヒリスティックなカート・ヴォネガットみたいな、ユーモアとニヒリスティックな感じが混ざったような文体で読みやすいし、物語としてもとにかくエンターテイメントのど真ん中を行くような小説です。
「スニーカーを盗んだ」という濡れ衣を着せられた男の子が、少年たちの強制収容キャンプみたいなところに連れて行かれて、毎日毎日穴を掘るという労働をさせられるんです。それは心を鍛え直すという建前のキャンプなんですけど、その穴を掘っている本当の理由は何なのか、穴を掘った先に何があるのか……いろんな物語が展開していくんです。
道徳的にいいことも書いてあるんですけど、爽快感みたいなもの、本当に80年代の「E.T.」とか「グーニーズ」のような子ども向けの映画を見た時の感動に近い、ずば抜けた面白さがある小説だと思っています。
自分が本に救われた体験を込めた
――2023年の『さみしい夜にはペンを持て』は15万部、今作も5万部以上と人気ですね。
実は『さみしい夜のページをめくれ』の方が企画としては先にあったんです。元々、小中学生に本の面白さや「こういう本を読んだら世界が広がるよ」というブックガイドのようなものを作りたいと思っていました。でも、どんな本を紹介するかなど考えているうちに企画が煮詰まってしまって。そこで日記をつけることや文章を書くことなど、まず私がずっとやってきたことを先に出して、同じ世界観の主人公タコジローのお話として、今回の2冊目が出た感じですね。
――中学生を主人公にした本を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
元々、ビジネス書と言われるカテゴリーの本を作ることが多かったのですが、ここ10年くらい、いかに役に立つか、どれだけ仕事に活かせるかが重視されるようになってきました。本って本当はもっと違った喜びがあるはず。どういう読者だったら「わあ、面白い」とか、例えば本を読みながら電車を乗り過ごしてしまうような没入感を届けられるだろうと考えたとき、浮かんだのが小中学生だったんです。
――古賀さんは、2013年に岸見一郎さんとの共著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)がベストセラーになりました。青年と哲人の対話形式でアドラー心理学を解説するスタイルでしたが、「さみしい夜」シリーズも、タコジローとヤドカリのおじさんやヒトデの占師との対話で進んでいきますね。
『嫌われる勇気』で対話編というスタイルをやってみて、自分としても書きやすかったですし、読者の方も読みやすくて面白いとおっしゃってくれました。今回も、作者の私が前面に出て「本を読むとこんなにいいことがあるよ」と言うのは変ですし、ヤドカリやヒトデのキャラクターの口からそういう言葉が出た方が、メッセージが押し付けがましくならないと思ったんです。
――『さみしい夜のページをめくれ』には80冊以上の本が登場しますが、古典から最近のベストセラーまで満遍なく紹介されています。
学校の先生が知らないような今の作品や、両親が名前も聞いたことがないような作家の作品も紹介したいと思いました。この本を片手に本屋さんを見回してもらうと、本屋さんが遊園地やダンジョンのような、今まで見ていたのと全く違う本屋さんが現れるんじゃないか、そういう本にできたらいいなと思って作りました。
本を読むことって、特に教育現場では「いいこと」とされすぎていて、本を薦めるのはなかなか難しいと思うことが多いんです。自分はなぜ本が好きなのか、本のどういうところに救われてきたのかを思い返しながら書いていきました。私自身が本に救われた体験のようなものを、この本に詰めていったような気がしますね。