SUPER BEAVER渋谷龍太さん 〝あなたに″届くMCの秘訣「新宿末廣亭で身についた語り」(第14回)
【今回のテーマ】 相手に届く叱るときの言葉 / ヤバイとエグいのちがい
MCの劇団ひとりさん、WEST.の桐山照史さん、俳優の小野花梨さん、小説家の村山由佳さんとともに参加した渋谷さん。前回「わたしの日々が、言葉になるまで」で、収録を終えた気持ちを比喩を使って表現するというお題が出ましたが、渋谷さんは「好きな人との最初のご飯後の帰路の心持ち」と答えていらっしゃいましたね。
「『ひびこと』に出るのを本当に楽しみにしていたんです。だから、実際に皆さんと言葉について意見を交わし、嬉しかったし楽しかったんだけど、終わりが見えた瞬間にちょっと疲れがきて『俺、意外と肩に力が入ってたんだな』ってわかる、そういう感じを表現しました」
前半のテーマは「相手に届く叱るときの言葉」。SUPER BEAVERは20年間ずっと同じメンバーでやってきたとのこと。メンバーを叱らないといけないとき、苦言を呈さなければいけないときはどうしていましたか。
「もともと高校の先輩と後輩で、年齢もひとつちがい。高校のときこそ、『目上の人の前でそういう態度はとらない方がいいよ』と言ったこともありましたけれど、それ以降は『叱る』というていをとったことはないですね。みんな同等の関係。意見する必要があるときも、あくまでもディスカッションの形を崩さないようにしています」
一方通行の叱責にならないために、どういう工夫をしていますか。
「相手の意思や気持ちを大事にするということかな。そして、キレない、怒らないということ。『キレる』って自分の弱さを見せる、すごく恥ずかしい行為だと思っていて。自分の思い通りにならなかったからとか、自分に非があったり、踏み込まれたくないところに踏み込まれちゃったからこそ、ひとってキレるんだと思うんですよ。思い当たる節があるからこそキレちゃう。それってダサい。ダサすぎる。だからいったん相手のいうことを飲み込んで、そうだよね、でもさ、っていうところから自分の考えを話すようにしています」
いろいろな性格のメンバーがいると思うのですが、みなさん忌憚なく自分の思うことを言い合える関係ですか。
「こと音楽に関しては、絶対そうだと思います。私生活のことに関してはまた話が変わるかもしれませんけど、音楽に関することなら思ったことを遠慮せずに言った方が、それぞれの関係値をより純度の高いものにできる。僕も言うし、みんなも言ってくれますね」
番組では「スラムダンク」(井上雄彦作)から安西先生が教え子に言った「お前の為にチームがあるんじゃねぇ チームの為にお前がいるんだ‼」というセリフが紹介されました。渋谷さんは「フロントマンだから、俺の為のバンドだと勘違いしそうになる瞬間が多いけれど気をつけている」とおっしゃっていましたね。
「そうなんです。今、なんでムカついたんだろうって自分を振り返ると、やっぱりそこには思い上がりがあって。常に自分を俯瞰で見るように気をつけています。自分を世界のいち登場人物として捉えて、主観を排除して見たときに、『こいつが言ってることは間違いねえわ。もう完璧だもん』って思えますかって言ったら、答えはいつも『いいえ』なんで。その目線があるからこそ、いっぱい練習したりとか、いただいた仕事1本1本にまじめに取り組んだりできる。常に『油断ならぬな』と感じています」
バンドのボーカルというと、作詞も担当するイメージがあるのですが、SUPER BEAVERでは作詞はギターの柳沢亮太さんが担当することが多いそうですね。一方、渋谷さんのライブ中のMCは心に響くと毎回切り抜き動画が上がるほど人気です。作詞、MC、エッセイは渋谷さんのなかでどういう位置関係なのでしょうか。
「作詞の短いセンテンスを細かい枠組みの中にはめ込むっていう作業が、僕はそこまで得意ではなくて。それよりも自由な時間の中で言葉を紡ぐことのほうが性に合っているんです。なので、MCやエッセイだと言葉がよどみなく出てくる。バンドなので、得意なことは得意な奴がやればいいって思っています」
後半のテーマは「ヤバイとエグいのちがい」。渋谷さんは流行り言葉に抵抗があるそうですね。番組では「(笑)」まではなんとか使うようになったけれど、その先のかっこなしの「笑」や「w」はいまだに使えないと話されていました。
「(笑)を使ってるなんておじさんぽいよって言われるんですけど、〈流されない自分〉みたいなのに一種の美徳を感じているんでしょうね。意地でも使わねえ、と思っちゃうんですよ。僕、『キモい』も一度も使ったことない。これはマジで胸を張って言えるんですけど、ほんとうにあんなにね、どぎつい語気の言葉ないと思っていて。簡単だし、パッて言えるし、俺はあの言葉が苦手なんですよ」
言葉を大勢の人に届ける態度としてとても大切ですね。渋谷さんはエッセイでも、ときにべらんめえ調で勢いはありながら、使う言葉たちは古式ゆかしいものという印象があります。これらの美しい言葉というのはどこから摂取しているんですか。
「落語かな。番組でもお話したんですが、僕は新宿歌舞伎町のちいさな産院で生まれ、新宿こそ故郷。新宿末廣亭という寄席があって、そこで落語と出会いました。末廣亭は一部の特別興行を除けば、昼の回に入れば夜の回まで通しでいられる。お金がない時の最高の娯楽でした。今年はまだ一回も行けてないんですが、お話ししていたら行きたくなってきました」
どなたのファンなんですか?
「僕はなんといっても談志(七代目立川談志)ですねェ。談志のDVDはほとんど持っています。落語の語りがすっと頭に入ってくるのは、テンポや間の取り方、緩急の妙だと思うんです。言葉を誰かに届けようと思ったら、どんな言葉を選ぶかはもちろん、語り方っていうのも大事なんじゃないかな」
なるほど。渋谷さんの歌やMCは、大勢にじゃなくて「私に」直接語りかけてもらっているように感じるのですが、その理由がわかったような気がします。言われてみれば渋谷さんの少ししゃがれた声も、落語家っぽいような……。
「ほんとですか。なんだろう、今すごくうれしかったです。やっぱり落語が好きなんですね」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は8月16日(土)20:45~。テーマは「嘘」です。