いとうせいこう『「国境なき医師団」を見に行く』書評 暴力がはびこる地球の活動
評者: 市田隆
/ 朝⽇新聞掲載:2018年01月07日
「国境なき医師団」を見に行く
著者:いとうせいこう
出版社:講談社
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784062208413
発売⽇: 2017/11/29
サイズ: 19cm/383p
「国境なき医師団」を見に行く [著]いとうせいこう
「国境なき医師団」の活動現場を訪ね歩いた記録から、強い衝撃を受けた。紛争で故郷を追われ、未来が見えない難民たち、どのような状況でもひたすら援助に奮闘する医師団スタッフ、無力感にさいなまれつつも人々と話し続け、表現しようとする著者。のうのうと暮らしている自分に対し、「これでいいのか」との問いが浮かんでくる。
著者の訪問先は、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダ。医師団が、災害や紛争時にすかさず現地入りするだけでなく、貧困ゆえに医療不足に陥り、暴力がはびこる地域で粘り強く活動する姿を知った。
経済危機で社会が崩壊しかねなかったギリシャでも、中東やアフリカから殺到した難民・移民への「心遣いが消えることがなかった」。人間はまだ信じられるという場面も多くある。
苦難に耐える難民に敬意を持ち、「明日、俺が彼らのようになっても不思議ではないのだ」とする著者の共感の言葉が重く響いた。