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身勝手な大人にぶっ放せ 赤川次郎「セーラー服と機関銃」

 30歳になった年の8月か9月に会社を辞めたんですね。校正者だったんですが、大人向けのミステリーだった「三毛猫ホームズ」第1作がでてから急に原稿依頼が多くなって。退職して最初に書いたのが「セーラー服と機関銃」。この方向でやっていくんだという覚悟ができた作品です。
 当時、高校生を主人公にした小説はあまりなかったんですよ。大人も学生も読めるミステリー、特に女の子が読んで気持ち悪い感じがしないものって書くのが僕くらいだったんですね。
 僕はずっと男子校で、初恋も高校を出てサラリーマンになってから経験したぐらい。主人公の星泉は頭の中で作った10代の女の子なんです。僕は古い仏文学とか独文学で成長してきました。僕のキャラクターも、元は海外文学に登場するような女の子たちがモデルなんです。それを明るく活動的に書こうとしました。

主人公に託した 社会への怒り

 僕はちょうど学園紛争の世代。大学にいかなかったので関わりませんでしたが、高校で一緒だった人たちは紛争にぶつかった。でも挫折して、我々の世代には何をやっても駄目だという諦めと、ニヒルな雰囲気があったと思います。
 そこに怒る主人公を持ってきたかったんです。身勝手な大人に対して、自己主張をきちんとする女の子。どこかで暴れて、大人の社会に向かって若い子が怒りをぶつけられるような話が書きたいなって。最後、機関銃をぶっ放すというのも、怒りの表現ですから。
 自分の身代わりのような形で主人公に託して、ずっとそういう話を書いてきたような気がします。いま「セーラー服と機関銃」を書くなら、もう少し社会的発言をする話になりそうですね。政府につけねらわれる、というような。
 実は最初に決めたのはタイトルだけでした。若い人向けの青春小説にしようとして、だったら「セーラー服」だって。テレビドラマの脚本を書いたとき、「タイトルは絶対に結びつかないものを並べると面白い」と言われていたんですよ。セーラー服と結びつかないものを考えて「機関銃」。お話は後から考えました。
 映画は、角川映画の初期の大ヒットになりましたね。小説の読者層も低い方に広がりました。小学校の高学年からファンレターがくるようになったり。
 映画は大好きなので、できるだけ自由につくってほしい。でも原作よりつまらなくなることの方が多い。この映画には相米慎二というユニークな監督がいた。アイドル映画なのにロングショットばかりで、アイドルの顔が見えない。試写を見て、無言になってしまいました。お話は原作通りにきちんと作って頂いてるんですよ。なのにこれだけ違う映画ができたことに、すごい驚きがありました。
 当時は「個性」がある人が有名になった時代ですよね。薬師丸ひろ子くんだって、他に代え難いから人気になる。今は人気の出た「パターン」に向かっていく。どれもこれも見分けつかないし、やってることもそっくり。そういう時代だからこそ、私は違うという子がでてきてほしい。
 人生で、壁にぶつかったときに、どう乗り越えるのかという物語に触れておくのが大事だと思うんですよ。小説はいろんな感情や出来事が入ってますよね。小説を読んでおくことで、人生はこう展開するとか、年を取るのはこういうことだと、若いときに予防注射のように疑似体験しておくのが大切だと思います。(聞き手・高津祐典)=朝日新聞2015年5月26日掲載