フランス革命の時代を生きた思想家コンドルセ。
これまでは、ルソーらに続く啓蒙(けいもう)主義者で、人間理性の無限の可能性を信じる「楽観的な進歩主義者」と見られることが多かった。
それに対して永見瑞木(ながみみずき)さんは、革命前からのコンドルセの政治構想を読み解き、一貫した問題関心で時代に対応した「漸進的な改革者」という新たな像を描いた。
なぜ、コンドルセなのか?
「私は移民の統合や、宗教と政治の関係といった現代の問題にも関心があります。フランスは、米英とは違う仕方で解決に当たっている。それを歴史的にさかのぼると、どういう思想の流れが描けるか。コンドルセは共和国を作った父とも言われ、共和主義を考えるには重要な人物だと思いました」
科学者として出発したコンドルセは、王政改革に協力し、政治に関わっていく。科学は専門家だけの知ではなく、新たな政治社会を作るのに不可欠なものだった。
「一人一人が判断力を身につけて、基本的な権利を行使し、権力を日々検証して問い直す世界を、彼は目指しました。知を重要な武器と考えていたのではないか。本のタイトルに『〈光〉の世紀』という言葉を使ったのも、本質を照らし出す〈光〉、知の力を信じていたと思うからです」
東京大学とパリ第1大学で政治思想史を学び、帰国後にまとめた博士論文からこの本が生まれた。
「現代的な問題に、直接言及するのは抑えています。でも、今の読者のかたが読んでくださるわけですから、どういうメッセージを投げかけ、どこでリンクするかは常に考えてきたかなと思います」
終章には、こう書いた。「様々な社会の亀裂や市民の政治に対する不信の拡大を前に、代表制に基づくデモクラシーの新たな可能性が模索される現代」、コンドルセの構想は「再考に値する」と。
立教大学助教を経て、4月から大阪府立大学の専任講師になる。
「東京と大阪は、東京とパリ以上に違う、と周りにおどされているんですけど(笑い)、新しい環境に身を置いてみたいです」=朝日新聞2018年3月18日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 恩田陸さん「spring」 バレエの魅力、丸ごと言葉で表現 朝日新聞文化部
-
- ニュース 本屋大賞に「成瀬は天下を取りにいく」 宮島未奈さん「これからも、成瀬と一緒なら大丈夫」(発表会詳報) 吉野太一郎
-
- インタビュー 北澤平祐さんの絵本「ひげが ながすぎる ねこ」 他と違うこと、大変だけど受け入れた先にいいことも 坂田未希子
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- BLことはじめ BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2023」 井上將利
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社