「ずっと地下活動」。過去をこう振り返る。3冊の詩集はいずれも自費出版。判型や組み方に趣向をこらし部数も数百ほど。2006年、4冊目の詩集『アストロノート』は萩原朔太郎賞を受け、注目を集めたが、これも絶版に。
それから約10年。気がつけば伝説的詩人と化し、過去の詩集にネットで高値がついた。「僕は死んだことになっているらしく、コレクター的な関心の対象となった」
そんな異常事態を打開しようと著作集の刊行を決めた。詩のほか文芸誌に発表した短編小説、評論などを全9巻に収録する。
福岡市内の図書館で働く映像保存の技術者、フィルム・アーキヴィストでもある。昔の映画フィルムの汚れを除去し、リポートを付け、半永久的に保存する。「自分の死よりずっと先の未来を意識する。詩的な想像力が必要です」
9月刊行の第8巻『さらばボヘミヤン』の三つの短編小説に登場するのは、小学3年の娘に心配される酒好きの詩人、映像機器の伝説的技術者ら。「完全にゼロから虚構を作るのは僕には難しい」と我が身を切って素材にしてきた。
その切り方に甘えやウソがないのだろう。弱点だらけで不器用で愚かさも抱えた魅力ある人物が誕生。彼らが懸命に生きる姿が笑いを誘い、哀切な詩情を生むのだ。
例えば表題作。この人同様、映画好きの「僕」が映画の製作費を稼ごうと奇妙な仕事をする。ヘラクレスオオカブトの白くて大きくて気持ち悪い幼虫の露天販売だ。5日かけて800匹を売るが、寝るのはワゴン車で、背後の箱で腐葉土の中の幼虫がもぞもぞ動く。僕はまるで自分も腐葉土の中にいる気分になる。「ああ嫌な宇宙だ。この臭くて狭い宇宙で、いったいおれは何をやっているのか」
詩とは「跳躍と切断」で、自身の小説には「詩的フィクションが介入してくる」とみる。たしかに幼虫への同一化は散文的日常から見事に跳躍している。
「小説家の書く小説と比べ下手くそ」と謙遜しつつも、「しようがない」と話す。その開き直りに詩人の自負と誇りがにじむ。
(文と写真・赤田康和)=朝日新聞2017年10月1日掲載
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