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こだわって最高の物語 和田竜さん

参加者と話す和田竜さん(左)

 10代のための読書会「オーサー・ビジット校外編」(主催・朝日新聞社、出版文化産業振興財団)の第27回が、『村上海賊の娘』で本屋大賞を受賞した作家・和田竜さんを迎え、仙台市で開かれました。『小太郎の左腕』(小学館文庫)を読んできた中1~大学生までの参加者は、世代別の班に分かれ、読書会に臨みました。

和田竜さん@仙台

 『小太郎の左腕』は、戦国時代、天才的な射撃の腕を持つ心やさしい少年の小太郎が、大人の武士たちの思惑に翻弄(ほんろう)されながら生き抜く物語だ。和田さんは、事前に参加者に「『小太郎の左腕』という小説の改善点を具体的に指摘する」という宿題を出していた。
 参加者はグループに分かれ、さっそく課題について話し始めた。事前課題は難問だったよう。「もう1人の主人公・半右衛門が愛した鈴は重要人物なのに登場が少ない」などの課題は見つかるが、改善策が思い浮かばない。
 そこで和田さんは、小説を書くときのプロセスを説明し始めた。和田さんが重視しているのは「構成」だ。あらすじを基にエピソードの表現方法や順番を徹底的に練り込み、構成を作る。それを基にセリフを加えたシナリオをまず書いて、さらに小説に仕上げるのだという。
 「編集者の指摘も大切です。編集者は作家と読者の橋渡し役として、小説をどう改善したらよりよくなるか、アドバイスをくれます。今日は、その編集者の役割をみなさんにしてもらいたいのです」
 和田さんの意図が分かった参加者たちは、見つけた課題の改善策を話し合い始めた。和田さんもテーブルを回り、相談に乗る。
 発表の時間になった。大学生グループは、小太郎とライバル関係にある玄太が愛する父の幻に向かって発した言葉が腑(ふ)に落ちないと指摘。そこで玄太が父親から小太郎と比べられるシーンを入れてはどうかと提案した。すると和田さんは「ちぐはぐな感じになると思いませんか?」と質問してきた。意見を交換するうちに、和田さんと大学生たちは、玄太と父親の関係に異なる解釈をしていることが分かってきた。
 高校生グループは、半右衛門と鈴の絆を表現するために、子ども時代の話を入れてはどうかと提案してきた。和田さんは苦笑いした。じつは映画化の話があり、プロデューサーに2人の関係を深掘りしては、と提案されたのだという。
 「皆さんが考えたエピソードは、僕が映画のシナリオに挿入しようとしたシーンにそっくりなんです。びっくりしました」
 中高生グループも半右衛門と鈴の関係にこだわった。そして、半右衛門の守り役である三十郎の視点から見た話を盛り込んではどうか、と提案してきた。
 「どこの部分に入れるの?」
 「どんなセリフで?」
 和田さんは学生たちの発言にうなずいたり、分からなければ何度も質問を重ねたりする。そのやりとりは映画かドラマの企画会議のようだ。脚本家でもある和田さんの一面が熱を帯びて現れていた。
 その熱意は校外編が終わった後も続いていた。後日、大学生グループに実際に改善策を小説に組み込んだらどうなるか、ていねいに解説した手紙を送ってくれたのだ。
 和田さんは学生たちの意見を真剣に受け止め、よりよい物語を作り上げようと貪欲(どんよく)だった。プロの小説家が創作にこだわる姿勢をとことん教えてくれた校外編だった。(ライター・角田奈穂子 写真家・白谷達也)

<読書会を終えて>

 浅野由樹さん(大3)「大学に入ってから小説を書き始めたのですが、和田さんが綿密な作業を積み重ねて執筆していることがよく分かって勉強になりました」
 住友淳大(じゅんた)さん(中3)「学校の課題で1万字の論文を書いているところなので、和田さんがどうやって小説を書いているかの話はとても参考になりました」
 和田さん「小説を執筆するときのプロの姿勢を伝えたかったのですが、私の課題にもきちんと回答し、物語の構造をしっかり読み解いているのには驚きました」=朝日新聞2018年01月28日掲載