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豊かな詩、無意識の力 詩人・和合亮一さんワークショップ@福島大学

わごう・りょういち 福島市生まれ。福島大在学中から詩を制作。1999年、中原中也賞。震災直後からツイッターで詩を発表し反響を呼ぶ。詩集『QQQ』を昨年刊。同大応援大使

 ワークショップは、本の著者が学校を訪ねて授業をする朝日新聞社主催の事業「オーサー・ビジット」の特別編。同大生のほか東京や福島から一般の人が参加した。

 和合さんは6班に分け、一人ではなく、周囲と対話しながら詩を制作してもらう手法をとった。
 まずは5分間で好きな言葉や気になっている言葉を自由に書いてもらう。〈揺れる〉〈風の音〉〈光があるところ〉〈おしるこ〉〈アンメルツヨコヨコ〉……。すらすら書く人がいれば、じっくりと絞り出す人もいる。
 次は言葉の組み合わせだ。他の人が書いた言葉も借りてランダムにつなげてみる。〈解剖台の上のミシンとこうもり傘との偶然の出会いのように美しい〉というロートレアモンの詩の一節を和合さんは紹介した。「無意識の中の出会いを捨ててしまっていませんか」
 参加者は震災からの8年を作文にして提出していた。和合さんがその一部を朗読し、印象に残った言葉を参加者にメモしてもらう。他人の言葉が刺激となり眠っている自身の言葉が呼び起こされる。
 1日目が終了し宿題も。就寝前と起床後の各5分間、頭に浮かんだ言葉を書き出すというものだ。
 夜と朝の言葉に違いはあった? 2日目の冒頭、和合さんが問いかけると、渡辺拓馬さん(23)は「就寝前はその日考えたことに関係する言葉。朝はまだ半分夢の続きで、夢の映像が言葉になっていると感じました」。和合さんが大切にしているのは朝に生まれる言葉が持つ「無意識の力」。それが散文にはない詩の豊かさになる。
 「一日の終わりの頭の中は整理されている。でも目覚めた後に浮かぶ始まりの言葉は本当に自分が求めている言葉かもしれません」
 そして、いよいよ詩をつくる。ワークショップの中で思いついた言葉、他の人から聞いた言葉、宿題で書き留めた言葉……。様々な言葉を組み合わせていく。
 1日目に〈おしるこ〉などを思いついた渡辺さんはこんな詩をつづった。〈おしるこもアンメルツヨコヨコも闇雲に混ぜられます/でも幼稚園の用意はしてます/よーするに慣れました/横向きにして/立って流刑地です本当に〉
  福島大1年の小豆畑美友さん(19)は人生で初の詩。〈私は太陽を水たまりに飼っている/ひまわりの夢現(ゆめうつつ)を射ぬくかのように/ひまわりは水たまりに憧れている〉。1日目に思い浮かんだ言葉の一つが〈夢現〉だが、「最初のイメージとは全然違う詩ができあがった。人の視点を取り入れることで新しい発展が生まれた」。
 福島大4年の柳未紗さん(22)は渡辺さんの〈おしるこ〉からイメージを広げ、〈ちょこぷりん〉など食べ物を並べ、こう結んだ。
 〈重ねて 押して 伸ばして 叩(たた)いて/全部が混ざり合っていく/それらは戻ることができない/元の形には戻ることができない/雨になって還(かえ)っていく/土に染みこんで/何かの花を咲かせるのだろうか〉
 和合さんは「『復興』とか『絆』といった言葉でなく、皆さんの何げないつぶやきに本当の気持ちが宿っている。とてもユニークな作品で、面白みというのも詩の魅力です」と評した。
 柳さんは「読む人の反応を考えながら書くのはいい。おっかないけど、一方通行じゃないところが楽しい」と感想を話していた。
 自分の中から発せられた言葉も別の誰かから借りた言葉も、言葉と言葉が出会うことで詩が生まれる。和合さんは最後にこう語りかけた。「1日5分でいいから、自分自身と向き合う時間を大事にしてください。そこから生まれた自分だけの言葉が、自分を導いてくれる言葉になる」(樋口大二)=朝日新聞2018年02月23日掲載