若者のための読書会「オーサー・ビジット校外編」(主催・朝日新聞社、出版文化産業振興財団)は2月、映画監督で作家の森達也さん(61)を迎えて東京都内で開かれ、「メディアへの違和感」「メディアに個人はどう向き合うべきか」といったテーマで、小学生から大学院生まで45人が熱く議論しました(学年は当時)。
森達也さん@東京
「今日はみんなでディスカッションをしたい」。登壇早々、森さんはこう切り出した。
参加者は、森さんの著書『たったひとつの「真実」なんてない』を事前に読んで来場。おおよその年齢ごとに分かれた九つの班で議論した。
「本当のことを報道していない」と中高生の班が指摘すれば、「情報の価値基準があいまいになっているのでは」と、大学生の班は掘り下げる。
様子を見ていた森さんは、「各班で、メディアへの違和感をまとめて発表しよう」と提案した。ものの考え方や見方は人それぞれ。意見を交わしてこそ理解が深まる。班の発表に対して同感でも反対でも、「何でもいいから」と感情を言葉にすることを促す。
有名人の不倫のニュースが相次いでいたため「(政治、社会問題など)本来報道すべき内容と大衆が望む情報に差がある」とある班が主張すると、「市場原理があるから仕方ない」(高3・女性)という意見も。
20代の班は森さんに質問した。「本来メディアは、どうあるべきなのですか」
森さんは、アメリカ大統領選を例に挙げた。
「アメリカでは、個人もマスコミも盛んに自身の考えを発表しあったが、日本のメディアは、中立性を重んじて、特定の政党(の支持不支持)についてあまり言及しない。いろんな観点の情報を得て自分の中で社会観を作ることが民主主義だから、メディアはもっと意見を言っていいと思う」
今度は森さんが問いかけた。「どうして日本人は周囲に合わせてしまうんだろう?」。外国籍の参加者に出身国と日本の違いを尋ねると「日本人は人と異なることを恐れている」(中国の女性)、「日常的に家族や友人と議論する機会がないからでは」(韓国の女性)と、率直な声が相次いだ。
森さんは日本のそうした空気について「変えましょう、といいたい」。SNSが広まり、日本でも自分の意見を言う機会が増えてきた。今がメディアの過渡期、と力をこめた。
では、具体的に何をしたらいいのだろう。最年長の班から「今のメディアを構造的に変えるのは不可能では。個人レベルでできることはないか」と意見がでた。
「(メディアを学ぶ授業を)教育に取り入れたらいい」(高2・女性)、「大勢で話し合うことが大切」(大学生・男性)といった発言が続く一方で「個々で価値観が違うから難しい」(高2・女性)という声も。
森さんは、ぜひ伝えたいことがあると口を開いた。
「木の色が緑だけではないように、世界はさまざまな要素でできています。けれど情報になる過程で四捨五入されてしまう。それを頭の中で戻さなきゃいけない、どうすればいいか――想像力です。想像力をもってメディアに接してください。真実はひとつじゃないと受ける側が理解していれば、情報の質は変わってくるんです」 (ライター・吉岡秀子)
<読書会を終えて>
佐藤風和(ふうか)さん(12)「難しくてわからないことも多かったが、楽しかった。『なぜ世界は戦争をやめないのか』など、もっとたくさん聞いてみたいと思いました」
片山皓平さん(24)「メディアのあり方について気になっていたので九州から参加した。たくさんの人と出会え、議論できたことが何より有意義でした」
森さん「予想をはるかに超える白熱した議論に驚きました。10~20代の多感な時期のみんなが情報をうのみにせず、メディアとどう接していくべきか、自ら考えるきっかけになればと願っています」=朝日新聞2018年04月28日掲載