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「鎌鼬―田代の土方巽」書評 記憶に刻まれた2日間

評者: / 朝⽇新聞掲載:2016年12月04日
鎌鼬 田代の土方巽 著者:細江 英公 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:写真集

ISBN: 9784766423877
発売⽇: 2016/11/08
サイズ: 19×27cm/62p

鎌鼬―田代の土方巽 [写真]細江英公 [編]鎌鼬美術館

 異物の舞。古色漂う風景のなか、宙を舞う半裸の男を幼い少女たちが見やっている。この写真集の表紙を飾る一枚は、強烈だ。
 「舞踏」を生んだ土方巽(ひじかたたつみ)と写真家・細江英公(えいこう)が秋田県羽後町田代に突然現れたのは65年秋。土方が奇天烈(きてれつ)な動きで人々を巻き込んだ2日間を細江が捉えた。同地に「鎌鼬(かまいたち)美術館」が生まれた今秋、69年の写真集に未発表のカットなどを加え、再編集したのが本書だ。
 土と一体化するような、あるいは浮浪者さながらの土方は稲架(はさ)に登り、田んぼを疾走する。見守る集落の人々は意外にも笑顔。2人が東北出身だからなのか、寛容なのか。半世紀を経ても、この2日間は人々の記憶に刻まれているという。
 少子高齢化が進む農山村。近年は活性化を狙い、芸術祭、アートイベントが目白押しだ。でも「鎌鼬」のような異物感からはほど遠い、口当たりのよい表現も目立つ。本書を見ながら半世紀後も記憶に残るものはどれほどあるのか、と思う。
 評者:大西若人(本社編集委員)