東京都港区内の一等地。約5千万円の値引きを実現して1550万円で40平米ほどの土地を購入した(詳しい経緯は著書に記述)。現在、自宅用の地下1階、地上4階の鉄筋コンクリートビルを建設し続けている。
足場を組み、鉄筋や型枠を作り、コンクリートを流し込む作業は、全て自分自身でする前代未聞の「セルフビルド(自力建築)」。ところどころ波打った壁などの個性的な造りは異彩を放っており、2005年に着工しながら現在も作業が続いていることもあいまって「三田のガウディ」とも呼ばれる。「最初は3年ぐらいで建つと思っていたのですが……」
1級建築士の資格を持つが、これまでに大工や鉄筋工など建築関連の実務に携わる様々な仕事を経験。そのうえで恩師の建築家・故倉田康男氏と禅問答のような対話を重ね、建築を「世界そのもの」と捉えるように。自力で建てるという選択は「自分の世界」を造ることに他ならず、「結局、全部自分でやんなきゃどうしようもない」との結論に至ったのだという。
著書では自身が目にした経験から、多くの建築現場でセメントに加える水が「水増し」されていることや、基礎工事の不正などが横行している現状を告発。阪神・淡路大震災の直後には神戸を訪れており、倒壊したビルについても、手抜き工事の可能性を指摘している。
ゆえに、自分で建てるビルは徹底的に強度にこだわり「200年は持つ」と断言。東日本大震災時も建設中だったが、びくともしなかったという。
09年、現場を含む周辺の再開発計画を知る。これが今回の出版の契機にもなった。当時は立ち退きの危機もあったが、開発業者と対話を続け、「見通しは少し明るくなってきたようにも思える」。問題は、自宅ビルを自分で建てているため、他の仕事が出来ず自身の収入がないこと。そのため、現在はビルの買い手を探している。ただし、条件は「僕と妻が生きている間は住ませてもらうこと」だ。「僕らが死んでも、頑丈なビルは残る。買った本人は住めないかもしれないけれど、絶対にお得な買い物だと思うんですよね」
(文・後藤洋平 写真・篠田英美)=朝日新聞2018年5月5日掲載
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