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「牛と土 福島、3・11その後。」書評 巨大な矛盾に対峙する牛飼い

評者: 中村和恵 / 朝⽇新聞掲載:2015年05月17日
牛と土 福島、3.11その後。 著者:眞並 恭介 出版社:集英社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784087815672
発売⽇: 2015/03/05
サイズ: 20cm/269p

牛と土 福島、3・11その後。 [著] 眞並恭介

 食べられない肉牛、売れない乳を出す乳牛に、経済的価値はない。しかしそれでも、牛は生きている。原発事故が起き、政府に安楽死させるよういわれたからといって、大切に飼ってきた牛を無駄に殺せない。そう感じた牛飼いたちは、「なんとしても、被曝(ひばく)した牛が生きていく理由、生きていく意味を見いださなければならない」と考える。生き物について長年考えてきた著者も一緒に考えつづける。殺処分の現場、餓死や野生化の様子、牛とともに動き変化する土壌を見つめ、研究のため、除染のため、農地の除草、里山の荒廃防止と、牛を生かす道を見いだしていく。
 いずれ殺して肉にするはずだった牛だ、結局みんな人間のためではないか、そういうこともできるだろう。しかし牛はモノじゃない。恐れ、泣き、愛し、信頼する、やっぱり家族だと福島の牛飼いは感じるのだ。率直なことばが、巨大な矛盾に対峙(たいじ)する。家畜とは、農業とは、人間とはなんなのだろうと思う。
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 集英社・1620円