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「ゲルダ—キャパが愛した女性写真家の生涯」書評 生を燃焼させる魔力に魅入られ

評者: 大竹昭子 / 朝⽇新聞掲載:2016年01月10日
ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯 著者:イルメ・シャーバー 出版社:祥伝社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784396650551
発売⽇: 2015/11/02
サイズ: 19cm/457p

ゲルダ—キャパが愛した女性写真家の生涯 [著]イルメ・シャーバー

 戦争写真が人々の目に触れるようになったのはスペイン内戦からである。新進のグラフ誌が写真を掲載し、カメラマンの意欲に拍車をかけた。近年女性戦場カメラマンの先がけとして注目されているゲルダ・タローもそのひとりだ。これまでは「ロバート・キャパの恋人」という惹句(じゃっく)に紛れていたが、実際は彼を職業写真家に仕立てる役を果たし、本人もまたすぐれた写真を数多く残していることを本書は詳(つまび)らかにする。
 東欧系ユダヤ人で体は小柄だったが、男が二の足を踏む前線にも平気で赴き、しかも美人。戦地では目立つカップルだったようだ。しかし、ゲルダ撮影の写真の多くがキャパとクレジットされたために埋もれる結果になった。キャパだけのせいではない。当時は写真家は素材を提供するだけでそれをどう扱うかは雑誌社に任されていたのだから。
 キャパを一躍有名にした両手を広げて倒れる「崩れ落ちる兵士」の写真が巻き起こした実戦を撮ったものではないという後の論議や、この撮影者はゲルダの可能性が高いという沢木耕太郎が解説で触れている自説は、そうした時代状況抜きには理解しえないだろう。雑誌は人々の見たがるイメージを競って掲載し、社会の側にもその信憑(しんぴょう)性を問うという姿勢がなかった。
 添える言葉によって見え方が一変し、社会を一方向に動かしたり人々の感情を煽(あお)り立てる側面が写真にはある。突き詰めればそれは人間自身がもっている意識の不安定さや揺らぎやすさの顕(あらわ)れであり、写真は単にそれを正直に映しだすだけなのだ。
 内戦当時ゲルダは26歳、キャパは22~23歳。刻々と変化する戦況に生身で反応することを求める写真に深く魅入られたことは想像できる。抵抗心をもった若者の生を燃焼させるのにこれほど最適な道具はなく、その魔力を知ってしまった彼らは写真と契りを交わしたも同然だった。
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 高田ゆみ子訳、祥伝社・2268円/Irme Schaber 56年生まれ。ドイツの歴史学者、作家。