日本はなぜかくも対米従属的なのか。トランプ大統領の機嫌を取ることにやっきな安倍政権の動きをみるたびに誰しも思うこの疑問を、著者は「国体」という意外な言葉で説明する。
一般的に国体とは、戦前日本の特殊な国家体制を意味する。天皇は父として臣民を慈しんでいる。だから臣民は喜んで天皇に奉仕しなければならない。このように天皇と臣民は家族であり、その関係は単なる支配・服従ではないとされた。
著者は、この構造を戦後の日米関係にも見いだす。アメリカは慈父として日本を守ってくれている。だから日本は「思いやり予算」などで応えなければならない。戦後の日本は、天皇の上にアメリカを戴(いただ)くかたちで国体システムを再編し、存続させたというのである。
この体制では、日本の自立など望みがたい。「戦後の国体」に忠実であるほど、立憲主義を破壊してでも、沖縄を足蹴にしてでも、今上天皇を蔑(ないがし)ろにしてでも、アメリカに付き従わなければならないからだ。その果てに待つものが破滅であろうと、献身的な従属は止まらない。
本書は、日本の戦前と戦後を「国体の歴史」としてパラレルに捉え直し、その形成から崩壊までを大胆に論じている。多くの読者を魅了しているのも、複雑な近代史を独創的かつ図式的に整理し、「なぜ対米従属が止められないのか」との疑問に「それは戦後の国体だからだ」と明確に答えているからだろう。
もちろん明快さの裏には強引さが隠れている。だが、昨今の歴史研究は実証を重んずるあまり、しばしば細部にこだわり全体像の提示を軽んじてきた。その反動が「大東亜戦争は聖戦だった」式の大づかみすぎる歴史観の流行ではなかったか。
読者は見取り図を求めている。その欲望をむげにしてはならない。今日の課題は、陰謀論に警戒しつつも、重箱の隅いじりに陥らず、全体像の向上を図ることだろう。本書の受容も、その文脈に置くと生産的である。
◇
集英社新書・1015円=6刷7万部。4月刊行。13年に話題を呼んだ『永続敗戦論』で論じた対米従属の問題をさらに掘り下げた。=朝日新聞2018年6月2日掲載
編集部一押し!
- インタビュー いしわたり淳治さん「言葉にできない想いは本当にあるのか2」インタビュー 言葉をうまく操ることができたら悩みも減るはず 宮崎敬太
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 10代の幸せな読書体験が蘇ってくる! 野崎まど「小説」(第21回) 杉江松恋
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 きさらぎ駅、くねくね……新しい時代の怖い話を追いかけて 廣田龍平さん「ネット怪談の民俗学」インタビュー 朝宮運河
- インタビュー 富安陽子さんの人気シリーズ「シノダ!」 山と町、異界と人間界 はざまで生まれる日常と地続きのファンタジー 大和田佳世
- 新作映画、もっと楽しむ 松山ケンイチさん・染谷将太さん主演「聖☆おにいさん THE MOVIE ~ホーリーメンVS悪魔軍団~」 聖人のユルく愛おしい戦い 根津香菜子
- オーディオブック、もっと楽しむ 上白石萌音さん「いろいろ」オーディオブック版インタビュー 20代前半の自分に再会した「酸っぱさ」 岩本恵美
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社