「民族浄化のヨーロッパ史」書評 理性崩壊後の教訓を自らに課す
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2014年10月05日
民族浄化のヨーロッパ史 憎しみの連鎖の20世紀 (名古屋市立大学人間文化研究叢書)
著者:ノーマン・M.ナイマーク
出版社:刀水書房
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784887084186
発売⽇: 2014/04/04
サイズ: 22cm/371p
民族浄化のヨーロッパ史——憎しみの連鎖の20世紀 [著]ノーマン・M・ナイマーク
「民族浄化」という語は、1992年5月のボスニア戦争の初期から使われ、そしてユーゴ内戦とともに国際法上の犯罪と同一化された。「常に暴力」を伴い、「人類の生命にかなりの損害を与え」「戦争と密接に関連している」というのである。
20世紀の人類史が抱え込んだ、そのケースをユダヤ人、チェチェン人、ユーゴスラビアの各民族などの例を引いて詳述する。加害側としてソ連、ポーランド、チェコ、セルビア人、クロアチア人などが挙げられる。第一次大戦下の青年トルコ人運動によるアルメニア人虐殺、ヒトラーとナチスはそれを称賛し、ユダヤ人攻撃につなげる。「ジェノサイドを公式に正当化し、覆い隠した第二次世界大戦もその状況を作り」だしたとの見方に納得させられる。
ひとたび理性や意識が崩壊したあとの具体例には言葉がない。暴力は必ず復讐(ふくしゅう)の連鎖を生んだ20世紀、私たちは本書が伝える教訓を自らに課す覚悟が必要ではないか。
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山本明代訳、刀水書房・4860円