『もう「ゴミの島」と言わせない』書評 本土からの暴力と現場の機微
ISBN: 9784865781717
発売⽇: 2018/03/22
サイズ: 19cm/391p
もう『ゴミの島』と言わせない 豊島産廃不法投棄、終わりなき闘い [著] 石井亨
瀬戸内海の豊島といえばアートの島。私と同世代の多くは多分そう思っている。1970年代から産廃不法投棄問題で揺れてきた島だというのは、昨年、兵庫の加古川である方が教えてくれた。その方自身、父祖からの土地が、産廃で汚染されていることに悩む人だった。東京で生まれ、東京で暮らす私は、産廃の不法投棄というと、ひどかったのは一昔前で、もうすでに解決されつつある問題のように感じていた。そのことを恥じた。社会のあり方が何十年も問われ続けているのだと強く感じた。
本書は単なる闘争記ではない。著者は島でヤギや鶏を飼って農業を営んできた人物だ。後に運動のキーパーソンとして、県議会議員にもなり、その後ホームレスのような生活を経て、ソーシャルワーカーとなるなど異色の経歴である。運動が進む中で迫られる動物たちとの別れ、農業への思い、生きていくことに伴う心の機微を描きだす力が、類書にありがちな勇ましさとは一線を画す瑞々しさを本書に与えている。
著者はまた、現場の人間からみた「島の外」がもたらす暴力について描く。豊島に捨てられたゴミの多くが自動車解体で出るシュレッダーダストで、本土から持ち込まれたということは勿論、住民運動が注目されると専門家や学者が当事者であるかのように「豊島」を語り始める暴力性、「アートの島」となると人が押し寄せ現地住民が船に乗れず生活に支障の出たことなど、誰かの土地に対して何かをするということ、そこに求められるモラルと繊細さについて、自戒を含め、多くを考えさせられる。
豊島の初期の廃棄物処理現場では防毒マスクが足りず、末端の労働者が装備なしで入っていたという。健康を失った労働者のその後に関わり続けた著者が、化学物質に曝露された可能性を指摘している箇所は原発労働をも想起させ、読み飛ばせない重みがある。文句なしの良書である。
◇
いしい・とおる 1960年生まれ。住民団体「廃棄物対策豊島住民会議」の事務局役や香川県議を務めた。