本書のネット上での読者レビューは評価が二分されている。それは、著者が発案した新しい仮想通貨MINE(マイン)が生み出す「マイニング経済圏」の説明が難しいからだ。
MINEを貯(た)める財布(ウォレット)と連動したカードで買い物をすると、サイバー上で取引が記録される。同時に、買い物の額に応じて、新たに発行された仮想通貨が財布に送られる。「消費」が「資産形成」に結びつくのがマイニング経済圏だという。
それを「買い物をするとお金が増える」と表現するが、説明に隔靴搔痒(かっかそうよう)の感があるのは、MINEの仕組みより、MINEで何を可能にしたいのかという未来像を語る方が先走りしたためだろう。
本書に対する高い評価は、その未来像への共鳴だ。送金手数料が限りなくゼロになるなど、仮想通貨の「真価」を生かし、モノの売買を法定通貨を介さずに行うことで、より便利で豊かになる社会。
著者が住むフィリピンでは、すでに出稼ぎ先の外国からの送金で仮想通貨が重宝されているという。日本ではもっぱら投機対象とされているが、仮想通貨も「どんな世界を実現したいのかというビジョンの勝負になってくる」という著者の言葉は予言的だ。=朝日新聞2018年6月16日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社