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「ほぼ命がけサメ図鑑」沼口麻子さんが語るシャークジャーナリストって?

文:岩本恵美、写真:有村蓮

「サメ観」をガラリと変えた運命の1冊との出会い

――沼口さんはなぜサメに興味を持ったのですか?

 小さいころから生き物全般が好きで、漠然と生き物関係の職業に就きたいなと思っていました。東海大海洋学部に進学して、自分よりも大きい生き物をやりたいなと思っていて。
そんな中、大学1年生の時に購買で「サメ・ウォッチング」という本を見つけたんです。それまで、サメって怖いイメージだったんですけど、その本を読んだら人食いザメもいないというし、サメといっても多種多様な種類があることを知りました。「もしかしてサメって生き物は面白いかもしれない」と思ったんですね。サメの研究はまだまだ発展途上とも書かれていたので、「サメを研究テーマにするのもいいかな」と何となく思いました。
 それから、大学3年生の実習で小笠原諸島の父島に行った際、自由時間にダイビングをしたら2.5メートルくらいのシロワニというサメがワーって寄って来て。それにすごく感動して「よし、私はこの研究者になろう」って心を決めました。

シャークジャーナリストの道

――大学、大学院でサメの研究をされて、なぜ研究者ではなく「シャークジャーナリスト」になったんでしょう?

 研究者が自分の性格に合ってない感じがしたんですよね。ゼミの先生からも「あなたは興味があったら色んなところへ行っちゃうから、研究者気質ではないね」と言われて。それで、一度はIT企業にプログラマーとして就職したんです。会社員として働いている間は、中途半端はよくないと、論文や本など全て廃棄して海やサメとは決別していました。

 でも、8年働いてみたものの合わなくて、半年間休職して色々と考えたんです。自分が他人より秀でたところ、伸ばすべき能力は本当はどこなんだろうか、と。「サメだったら、一般の人よりも詳しいかもしれない」ということ。大学にいたころは、まわりの人が優秀で、研究者としての私はサメの劣等生でした。でも、社会に出てみたら、「自分よりサメに詳しい人には出会わないな」と気付いて。6年ほど前から、「シャークジャーナリスト」と自ら名乗って、サメに関する情報発信をしていく活動を始めました。

――巡り巡ってサメに戻ってきたわけですね。サメのどんなところに魅力を感じているのでしょうか?

 地層などを調べると、サメは4憶年近く前から存在していて、姿形も今とほぼ変わらないんです。つまり、既に4憶年前にサメは進化しきっていて、進化の最終形がサメなんじゃないかと。そんなところに力強さを感じます。しかも「サメ」といっても現在500種類以上いて、それぞれが各々独自の進化を辿っていて、環境適応能力がすごい。多分、地球の環境が変わっても、サメのどれかは生き残っていくと思うんですよね。

「ほぼ命がけ」の真意

――本では、沼口さんがシャークジャーナリストとして世界中を飛び回って出会ったサメをご自身の体験を通して紹介しています。中でも一番印象に残っているサメは?

 やっぱりウバザメですね。ウバザメはジンベエザメに次いで世界で2番目に大きいサメで、最大のもので11メートルくらい。大きなサメは個体数が多くはないので、ウバザメはサメの中でもなかなか出会うことのできないサメの一つ。昔は日本近海にもたくさんいたんですが、いま確実にウバザメを見られるのは、7月中旬ごろのスコットランド沖くらいなんです。
 ところが、そこで私は低体温症になってしまって……。寒さに体が負けてしまったものの、1回目のチャレンジで運よくウバザメを見ることができました。一緒に船に乗っていたアメリカ人のおじさんは3年目にしてやっと見られたと言ってましたから、本当にサメウォッチングは運なんです。本のタイトルの「ほぼ命がけ」というのは、サメに襲われるということじゃなくて、この時の体験やドバイのフィッシュスーク(魚市場)で危ない目に遭ったこととか、けっこう「命がけ」体験がありまして(笑)。

各サメを紹介するデータ部分には、寄藤文平さんによるイラストも掲載

シャークジャーナリストおすすめの “サメ本”

――自著以外でおすすめの“サメ本”があれば教えてください。

 サメの本ってあんまり多くはないんですけど、一つは「サメってさいこう!」という絵本。内容はサメの研究者が監修していて、絵もかわいいし、科学的な情報も満載。絵本なのに侮れません。
 サメのことをもっと科学的に知りたいなら、「サメ・海の王者たち 改訂版」ですね。サメの種類はもちろん、「エラはどこにあるのか」などサメのことがかなり詳しく書いてあります。サメのことを調べる辞書的な本です。
 あとは、「美しき捕食者 プレデター」。これは私が所属していた研究室の田中彰先生が監修されていて、大きさも手に取りやすく、お手軽です。

 科学的なサメ図鑑は既に何冊もありますし、私が研究者ではないので研究に裏付けされた科学的な本を書くのは違うかなと思うんです。なので、私はジャーナリストの立場から、自分が見た真実としてサメの姿を書きました。そういう意味では唯一無二のものになっていると思います。体験型の本にしたので、研究者ではない視点を楽しんでもらえればうれしいですね。

サメと多動と漁師と酒で、サメ業界の“ハブ”をめざす

――今後、シャークジャーナリストとしてやっていきたいことは?

 自分が大学で研究していたころ、解剖用のサメのサンプリングが非常に大変だったという思いがあるんです。自分のサメは自分で調達しないといけない。でも、サメは自分で獲れるものでもないので、漁のお手伝いをすることで、漁網に紛れ込んだサメを漁師さんから提供していただくんです。だから漁師さんたちと仲良くなるために、色んなところに顔を出したり、学生時代は漁師さんや水産関係の方と一緒に飲み屋を3、4軒はしごしたりしていました。そんなこともあってか、サメのサンプルをいっぱい頂くことができたので、おかげさまで大学院を修了することができました。今はサメに特化した情報発信をしていく立場になったので、今後は私がハブとなって、研究者はもちろん、サメに興味がある人たちを上手につなげていけたらいいなと思っています。