「木材と文明」書評 人は森とどう付き合ってきたか
ISBN: 9784806714699
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サイズ: 22cm/349p
木材と文明 [著]ヨアヒム・ラートカウ
木材や森林のことというと、読む前から何が書いてあるのか、なんとなく想像をつけてしまう。緑豊かに茂る葉や腐葉土の役割。多様な生物。木材加工の伝統技術。もしくは熱帯雨林の乱伐や酸性雨による枯死。針葉樹林を大量に植栽する弊害。人手不足で荒れゆく山林。森林浴。どのトピックスも繰り返しメディアに登場する。私たちは余程森と樹木が好きなのだろう。
いまさら何をという気持ちで本書を開いて反省。先史時代から現代にわたりヨーロッパ、主にドイツ圏で、人々が森とどう付き合い、木材を利用してきたのか。歴史学者が開帳する人々の営みは、驚かされるものばかりだ。
とりわけ中世から近世ヨーロッパの森を大きく左右した三つの営み、造船、放牧、そして狩猟。戦争や貿易に向かう大型木造船を作るために、まず森を手に入れる権力者。さらに異様なほど狩猟を愛好し、獲物を増やしたい諸侯と、森の木の実に頼って豚を育てていた農民は、森林動物の管理を巡って、しばしば争いになったという。
この三つ、日本の近世では鎖国と肉食の公的禁止があったためか、慎(つつ)ましく周縁的に行われたため、余計に西欧での蕩尽(とうじん)っぷりには舌を巻く。
炊事などの火力をまかない、タンニンやガラスや塩や鉄や風車などの簡易な機械まで、当時はなにもかも木々に依存して生きていたのだ。当然森は減り大木は消え、不安になる。このままではまずい。というわけで、産業革命のはるか前から木を消費し過ぎないよう、人々は節約と植栽を繰り返し、持続可能な道を模索していたのだった。それにしては進歩ないなと思うのは筆者だけではあるまい。
人は森とどう付き合い、管理するのが正しいのか。守るべき「自然」とは何か。答えはいまだに出ていないからこそ、歴史を振り返り、視点を広げることが必要なのかもしれない。
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山縣光晶訳、築地書館・3360円/Joachim Radkau 43年、ドイツ生まれ。ビーレフェルト大名誉教授(環境史)。