「バリの息吹―王族と庶民生活の融合」書評 信仰と芸能を愛し、楽しむ日常
評者: 田中優子
/ 朝⽇新聞掲載:2014年02月02日
バリの息吹 王族と庶民生活の融合
著者:小野 隆彦
出版社:東京農工大学出版会
ジャンル:写真集
ISBN: 9784904309100
発売⽇:
サイズ: 20×22cm/129p
バリの息吹―王族と庶民生活の融合 [撮影・文]小野隆彦
単なるバリの観光写真集ではない。副題にあるように、バリの王族が、保護しているその伝統芸能や儀式を軸に、庶民とともに毎日を生きている貴重な記録である。
具体的に言えば、芸術村ウブドの隣にあるプリアタンの情景だ。王族が結成したガムラン楽団ティルタサリとグヌンサリ歌舞団の日常に密着した。地域の子供たちも勤め人も主婦も踊る。皆がバリの信仰と芸能に親しみ、愛し、楽しんでいる。その日常が暖かく面白い。
その王族マンデラ家には日本人女性が嫁している。そのマンデラケイコさんによる日々のお供えや祈りの生活もとらえられている。村の結婚式や祭りも見られるが、圧巻は葬式だ。約二十五メートルに及ぶ九重塔の葬式塔を組み、きらびやかに装飾して棺をおさめ、二百五十人で担いでゆく。多くの人がご詠歌を歌いながら随行し、最後は作りものの巨大な聖牛の中に遺体を収めて火葬にする。さながら祭りの賑(にぎ)わいもまた、バリ文化だ。
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東京農工大学出版会・2625円