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ウォーラーステイン「近代世界システム4―中道自由主義の勝利」書評 真骨頂の「自由貿易は保護主義」

評者: 水野和夫 / 朝⽇新聞掲載:2013年12月22日
近代世界システム 4 中道自由主義の勝利 著者:I.ウォーラーステイン 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784815807467
発売⽇:
サイズ: 22cm/343,80p

近代世界システム4―中道自由主義の勝利―1789−1914 [著]I・ウォーラーステイン

 「長い16世紀」を扱った1巻刊行が1974年、やっと待望の4巻が出た。本書ではフランス革命の衝撃を吸収する過程である「長い19世紀」(1789〜1914年)を扱い、「世界帝国」から「資本主義的世界経済」への移行プロセスを解き明かす。
 仏革命以降、保守主義、自由主義、急進主義(社会主義)という三つのイデオロギーが生まれた。1830年の7月王政で自由主義が勝利する。ルイ=フィリップは「国王」ではなく「フランス人の王」を名乗ろうとした。
 当初の「左翼」的スタンスから「中道」へと軸を移した自由主義者は、穀物条例を廃止し、1848年の欧州革命の試練を乗り切ったことで、英国では自由貿易帝国を形成し、仏国がそれを補完した。
 「近代世界システム」論の真骨頂のテーゼの一つに、「自由貿易は、じっさい、もうひとつの保護主義」がある。「それは、その時点で経済効率に勝(まさ)っていた国のための保護主義」だからである。
 そんなことは新古典派の始祖アルフレッド・マーシャルでさえ気がついていたのだが、21世紀の新自由主義者は、「レッセ・フェール=自由放任」という神話と「進歩」を信奉し続けている。
 近代世界システムの根幹をなす資本主義的世界経済は中核・半周辺・周辺から成り立ち、「不等価交換」を前提に「世界的分業」を展開する。国内にも非正規社員という「周辺」を作り出す、21世紀のグローバリゼーションはそれを地でいっているのだ。
 近代はあらゆることを細分化し、専門家が主役となった。しかしもはや市場の研究のための経済学、国家にかかわる政治学、市民社会を対象とした社会学など再結集しないと、「個人主義という羊の皮を被(かぶ)った、強力な国家のイデオロギー」に他ならぬ自由主義の本質はつかめない。
 5巻、そして6巻を一刻も早く読みたい。
     ◇
 川北稔訳、名古屋大学出版会・5040円/Immanuel Wallerstein 30年生まれ。米国の社会学者。