新井素子「イン・ザ・ヘブン」書評 どこか軽妙な人類滅亡の物語
評者: 川端裕人
/ 朝⽇新聞掲載:2013年12月22日
イン・ザ・ヘブン
著者:新井 素子
出版社:新潮社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784103858034
発売⽇:
サイズ: 20cm/284p
イン・ザ・ヘブン [著]新井素子
いずれは訪れる個々人の死や人類の終焉(しゅうえん)を主題にした作品からなる短編集。と紹介すると非常に重たいが、36年前、高校生作家としてデビューした頃と同様、筆致は軽妙。
星新一の有名ショートショートを意識した「ノックの音が」は、殺人的ウイルスの保有者が隔離される施設の外側で、さらに致死性の高いウイルス兵器が使用され人類が滅亡に瀕(ひん)するというダークな状況。語り手のウイルス保有者は、外界からの食糧供給がなくなり飢え死にする直前で、外の世界からの「ノックの音」を聞く。
「あけみちゃん」では、どこか邪悪な「神様」が保育園児を利用して世界を破滅させようとする。
救いのなさげな設定の中で、「一般市民を、なめるんじゃねえっ。神様が何を思おうが、神様を名乗る何かが何を思おうが、んなこと、知ったことじゃ、ないんです」とタンカを切る。そういう作品が生まれるこの世界は、捨てたもんじゃない。
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新潮社・1575円