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「吉田神道の四百年」書評 神使いの「仁義なき戦い」

評者: 荒俣宏 / 朝⽇新聞掲載:2013年03月10日
吉田神道の四百年 神と葵の近世史 (講談社選書メチエ) 著者:井上 智勝 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784062585453
発売⽇:
サイズ: 19cm/227p

秀吉も、義満も、徳川将軍も頼った神使い「吉田の神主」たちは、幕府の権力が直接及ばない「神」の領域をいかにして手中に収めていたのか。近世史の一断面として、神祇管領長上吉田家…

吉田神道の四百年 神と葵の近世史 [著]井上智勝

 まさに吉田神道を主軸に据えた神道各派の「仁義なき戦い」である。
 きっかけは、応仁の乱にともなう社会の混乱を利して、日本中の神を統率する「神使いの覇者」を目指した吉田兼倶(かねとも)の野望にあった。この人、社会と人心の荒廃に嫌気のさした伊勢のご神体が「神宮を抜け出して吉田神社の斎場所に飛び移ってきた」と称し、伊勢の権威を奪い取ってしまう。また神道界のトップ神祇(じんぎ)伯・白川家と同等の肩書を創設し、神位・神職の位階を授与する権限を掌握する。
 仕上げに、吉田神道は死んだ家康を神に格上げする寸前まで行くのだが、当時ローカルな神道だった「山王一実神道」での祭祀(さいし)を推す天海僧正に阻まれる。
 正一位の位階を分霊とセットで供与する伏見稲荷神社の新ビジネスとの対立や、白川家との覇権争いといった、吉田神道をめぐる俗っぽい争いの中で徳川の威光が地に落ち、「天皇」が再浮上するという経緯を解明する試みも斬新だ。
    ◇
 講談社選書メチエ・1575円