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いとうせいこう、みうらじゅん「見仏記 ぶらり旅篇」書評 森羅万象を観賞する遊び心

評者: 奥泉光 / 朝⽇新聞掲載:2011年12月18日
見仏記 ぶらり旅篇 著者:いとう せいこう 出版社:角川書店 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784041100332
発売⽇:
サイズ: 20cm/238p

見仏記 ぶらり旅篇 [著]いとうせいこう、みうらじゅん

 日本国内はもちろんアジア各地にまで足を伸ばして仏像を鑑賞して回っては、いとうせいこうが文章を、みうらじゅんがイラストを描く「見仏記」の第一弾が出てから二十年、昨今の仏像ブームの火付け役である本シリーズの最新刊である。今回は「ぶらり旅篇(へん)」、各地の寺院を足の向くまま巡っては仏像を見まくる趣向である。弥次喜多道中的旅の楽しさが全編に溢(あふ)れているのはいうまでもないが、見仏記コンビが鑑賞するのはもはや仏像とは限らない。眼(め)の前に現れる森羅万象が観賞の対象となる。それが猫だろうが饅頭(まんじゅう)だろうが即座に見仏記は開始される。つまり著者らの見仏は仏像のない所でも行われ、「仏でないものなど、この世にあろうか」とついに記されるに至る。すごい境地だ。なにか尊い。しかも笑える。というか尊いものは実は笑えるのだと得心できる。高い境地に遊ぶ著者らの愉悦と幸福感がジャズのライブのように伝わる。実際の仏像鑑賞の手引としても好適だ。
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 角川書店・1575円