「女子学生、渡辺京二に会いに行く」書評 なすべきは自身を「磨く」こと
評者: 後藤正治
/ 朝⽇新聞掲載:2011年11月20日
女子学生、渡辺京二に会いに行く
著者:渡辺 京二
出版社:亜紀書房
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784750511238
発売⽇:
サイズ: 19cm/275p
女子学生、渡辺京二に会いに行く [著]渡辺京二、津田塾大学 三砂ちづるゼミ
〈日本近代〉との格闘者、渡辺京二。おそろしい批評者がまだいるというのが評者の渡辺観であるが、津田塾大学のゼミ学生とのトークがまとめられた。アンバランスな組み合わせであるが、そこが狙い目でもあったのだろう。
女子大生たちが生真面目な問いを渡辺にぶつける。子育て、学校教育、発達障害、自己実現とやりがいある仕事などなど。渡辺は軽やかにいなしつつも自己体験を語り、モノの考え方の根本を披露していく。いまはやりの「自己実現」という言葉。渡辺流にいえば、人は生来、すでに存在として自己実現をしているのであって、今風の自己実現とは出世主義を言い換えたもの。そんなむなしい言葉にとらわれず、無名のままに自然体で生きなさいと諭す。なすべきは自身を「磨く」こと。
問答はすれ違いつつ、女子大生たちは何事かを受け取っていったのだろう。老境にある作家が、囲炉裏端で孫娘たちと談笑している光景のごとくもある。
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亜紀書房・1680円