「神保町 タンゴ喫茶 劇場」書評 お客の生態 克明な観察記録
評者: 逢坂剛
/ 朝⽇新聞掲載:2011年08月28日

神保町タンゴ喫茶劇場
著者:堀 ミチヨ
出版社:新宿書房
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784880084213
発売⽇:
サイズ: 20cm/221p
神保町 タンゴ喫茶 劇場 [著]堀ミチヨ
古書とタンゴのファンなら誰でも知っている東京・神田神保町のある喫茶店で働いていた女性の「お客観察記録」とでもいうべき本。仕事場が近い評者もときどき行く、その筋では有名なタンゴの店だが、本書では店名が伏せられているので、それに従う。
著者は、ウエートレスとして働きながら、店に出入りするさまざまな客を観察し、その生態を克明に記録する。なぜか男女の2人連れが妙に多く、それも夫婦以外のカップルが大半。中には、痴話ゲンカを始める者もいる。
読んでいて「ホントカイナ」と思わせる話もあり、匿名とはいえ当人が読んだら不快を覚えそうなコメントも散見される。ユーモアのこもった語り口が救いだが、そのあたりが少し気になった。
もっとも、評者はここで取り上げられたような客に、一度も出会ったことがない。従って、これがすべて著者の創作だとしても驚きはしない。むしろ、そう思って読んだ方が、無邪気に楽しめるかもしれない。
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新宿書房・2100円