伝わる読書感想文とは 共感や驚き、自分の体験に引きつけて 文芸評論家・三宅香帆さん@京都市立深草中学校
図書委員と聴講希望の生徒たちの大きな拍手で迎えられると、三宅香帆さんは「文芸評論家って、皆さんがこれから先もなかなか会うことのない、そのぐらい珍しい職業だと思います」と自己紹介し、こう続けた。
「図書館や図書室に行ったとき、どんな本から読んだらいいのかわからない、ましてや読書感想文を書けと言われても、どの本で書けばいいのかわからない。そういう人に向け、こんなおもしろい本がある、本をこんなふうに読むと楽しくなる、ということを伝えるのが、文芸評論家です。ある意味、読書感想文を書くことが仕事の一つでもあります」
今回のテーマはズバリ、「読書感想文の書き方」。宿題の中でも、自由研究と双璧をなすと言える「難題」である。
授業は、三宅さんが作成したスライドを見ながら進められた。
最初のステップは「具体的に書く」。「文章を書くだけでなく、これから皆さんは、人の前でプレゼンしたり、YouTubeなどで発信したりすることがあるかもしれない。『語彙(ごい)力がないと伝えられない』と思うかもしれませんが、私は細かく分ける『細分化』の力が大事だと考えます」
たとえば推しのアイドルのコンサートに行った、とする。すごくよかったという気持ちを表すとき、「めっちゃよかった」「最高だった」と書くよりも、「◯曲目が最高によかった」「こんな衣装やこんな髪形がステキだった」と具体的に表現した方が、推しへの愛がより自分以外の人に伝わりやすい。
「本の場合も、『このセリフにグッときた』『このキャラクターに心ひかれた』など、できるだけ細かく、そして具体的にメモしていきます」
二つ目のステップは、メモに記したことに対する「なぜ」=理由を書くこと。なぜそのセリフがいいと思ったのか、なぜそのキャラクターが好きなのか。「自分の体験を交えると書きやすくなります」と三宅さん。さらに、「好きだな、いいな、逆に自分にはよくわからないな、という気持ちを、『共感』か『驚き』に分類すると整理しやすくなる」とも。
「たとえば、『このセリフにグッときた』のが共感からであれば『自分と同じ価値観だから』。『このキャラクターにひかれた』のが驚きからなら、『自分にはない思考回路が新鮮だった』と、自分の体験と結びつけてみる。すると『なぜ』がより伝わりやすくなるのです」
最後のステップは「まとめ」だ。「その読書体験を経て『自分はどんなふうになりたいか』と感じたことを書くと、簡潔にわかりやすくまとめることができます」と三宅さん。
ひと通り説明が終わると、「では、実際に読書感想文を書いてみましょう!」。生徒たちは事前に選び持参した本について、三宅さんが伝授した三つのステップに基づきプリントに書き込んでいく。『君の名は。』『国宝』など映像化された小説、人気コミックの小説版『僕のヒーローアカデミア 雄英白書 桜』、伊坂幸太郎さんのミステリー『ペッパーズ・ゴースト』……。バラエティーに富んだ生徒たちの選書に、三宅さんは興味津々の様子だ。
3、4人ごとのグループの間で発表した後、1人が代表として発表することに。
宇佐見りんさんの芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』を選んだ生徒は、「主人公は自分と似たところもあるけれど、違うところもあることが興味深く、セリフには共感できた」とし、「推しを失った後、主人公が立ち上がっていく様が印象的でした」と述べた。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著)を「抽象的な題名と黄色い表紙にひかれて読んだ」という生徒は、主人公の中学生が置かれている人種差別や貧富の差が当たり前にある環境に「驚きを感じた」とし、「多様性について自分がいかに浅はかだったか、知らないうちに誰かを差別していないか、と考え、まずは知ることが大事だと思うようになりました」とまとめた。
シベリア抑留の実体験を取材したドキュメンタリー『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著)を原作にした映画『ラーゲリより愛を込めて』のノベライズ作品を読んだ生徒は、「作中に出てくる『頭の中で考えたことは誰にも奪うことができない』というセリフに感銘を受けました」。国語の授業の俳句が好きで、言葉を使って表現することの大切さを痛感しているというこの生徒は、「この作品を通じ、他人の考えに流されず、自分の思いを言葉にして残すことを心がけていきたい」と発表した。
三宅さんは「このセリフがいいと思うのか、こんなところに着目するんだ……。同じ本でも人によってこんなに感想が異なる、そういう視点もあったのかと、私自身、とても勉強になりました」と感想を述べ、生徒たちにこんなメッセージを送った。
「本を読んで今回のように自分が感じたことを表現することで、どんどん自分のことがわかってくる。私もやっているのですが、おもしろいと思ったセリフをスマホで画像に残しておくのもいい。そんなふうに本との付き合いを楽しんでいってもらえたら」
近藤紅葉さん(3年)「読書感想文はあらすじを書いてばかりで、自分の思ったことをどう表現していいのかわからなかったのですが、感情を共感と驚きで分類することで深く掘ると整理しやすいと実感できました」
山田龍ノ介さん(3年)「グループの中で発表したとき、自分以外の人が読んいでる本の感想を聞くのがおもしろかったです」