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高橋陽介「シン・関ケ原」 常識ひっくり返す「驚き」が

 教養の没落が嘆かれる令和日本にあって、依然として気炎を放つ教養ジャンルがある。歴史学、ことに日本史学である。お疑いの向きはお近くの書店を覗(のぞ)いてほしい。数々の新刊が毎月のように供給され、平積みされる新書、歴史書棚の活況を目の当たりにできることだろう。

 さて、そんな日本史学の世界に、また一冊、ベストセラーが生まれた。本書である。小山評定(おやまひょうじょう)、問い鉄砲などの数々の逸話で知られ、通説では徳川家康と石田三成の決戦と位置づけられていた関ケ原の戦いを、一次史料(同時代に書かれた書状など)から復元する、というコンセプトを擁した一般向け書籍である。

 本書は時系列に沿って現代語訳した一次史料を配し、注釈を挟みつつ「何が起こったのか」を解きほぐしている。このスタイルは、ノンフィクションや小説などで用いられる「語り」の方式だ。単純に読んでいてわくわくする、ドキュメント性の高いコンセプトだ。また、本書が(一般の人の)常識をひっくり返す内容になっていることも大きい。「驚き」があるのだ。

 しかしながら、本が売れる理由は、社会の動きにこそ注目すべきだ。

 二〇一四年、戦国ファンが大いに沸いた。白峰旬氏が著書にて、関ケ原の戦いの通説に疑義を提示したのである。それ以来、学界においてなされ、蓄積された議論が、一般歴史ファンには伝わり切っていなかった。白峰ショックから十年、イメージが失われたままだった関ケ原の戦いの実像を知りたい、そんな一般ファンのニーズを埋めた側面が本書にはあるのだ。

 かつて史的イメージは講釈師や小説家が形成してきた。現代は、書籍や講演、考証協力を通じ、研究者がその役目を担っている。本書のヒットは、教養の旗手の変化をも映している。=朝日新聞2026年2月28日掲載

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 講談社現代新書・1100円。25年10月刊。4刷3万3千部。「国民的コンセンサスともいえる『通説』を否定するため、『つらい』『悲しい』という声もあるが、著者のストイックさが新説への信頼感を生んでいるようだ」と担当者。