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「知の革命家たち」全250巻刊行開始 各分野の巨匠「『知のネットワーク』が像を結ぶ」

1月に刊行が始まった「知の革命家たち」シリーズ(水声社)。人文や芸術の各分野で20世紀の欧米で活躍した重要人物を紹介する

 人物単位でその思想を紹介する大規模なシリーズとしては、清水書院の「人と思想」やミネルヴァ書房の「日本評伝選」などがある。「知の革命家」シリーズは、20世紀に焦点をしぼりつつ、人文や芸術で幅広いジャンルの人物を対象にする特徴がある。

 例えば第1回配本として1月に刊行されたのは、哲学者ジル・ドゥルーズ、社会学者ピエール・ブルデュー、詩人ルネ・シャール、小説家ガブリエル・ガルシア・マルケス、作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンといった具合だ。

 この後も、画家パブロ・ピカソ、建築家ル・コルビュジエ、映画監督アルフレッド・ヒチコックといった総勢250人分の刊行が予定されている。

 共通するのは、20世紀に活躍し、各分野で変革を起こした人たちであることだという。水声社の広瀬覚・編集長は「20世紀が終わってすでに四半世紀。前世紀を客観的に振り返ることができる時代になっている。20世紀の重要人物が一望できるシリーズを今始めることには意義があります」

広瀬覚・編集長

 分野をしぼらなかったのは、同時代を生きた彼らがジャンルを横断して影響を与え合ったことが浮かび上がるからだ。

 詩人シャールは哲学者マルティン・ハイデガーと親交があった。作家・評論家のエドゥアール・グリッサンには、ドゥルーズとその盟友フェリックス・ガタリの影響が認められる。広瀬さんは「当時の『知のネットワーク』が像を結ぶのでは」と話す。

 水声社は1981年創業で、フランスやラテンアメリカの文学・評論関係を中心に手がける。昨年には「日本初の全巻邦訳」をうたうバルザック「人間喜劇」全訳全20巻の刊行も始めた。

 コロナ禍が今回の企画を始めるきっかけになったという。アマゾンに出荷しない水声社にとってコロナ禍は、リアルの書店という主要な流通路を奪われる事態だった。

 シリーズ全体の進捗を管理する関根慶・副編集長は「事業の窮地だった一方で、会社がやるべきことを見直す機会になりました」と話す。その中で今回の企画が具体化した。基本的な知識がない読者には、ある分野の専門書を手に取ってもらうきっかけもない。一般の人がアクセスする前の「知の土台」をつくるという構想に腰をすえて取り組むことになったという。

 シリーズの各本は、人物の伝記部分と、その思想・業績のエッセンスを紹介する2部構成。ハンディーな入門書にするため、200ページ以内、税込み2千円以内と同社の中では手ごろなボリュームを心がけた。

 250巻を毎月5冊程度、そして5~6年で全巻を刊行する計画だという。

 今回対象になったのは欧米の人に限られている。20世紀に知の変革をもたらした人は、アジアやアフリカにも、もちろん日本にもいる。関根さんはこう話す。「250という数字は大きいですが、目的地ではない。次の計画も考えてはいます」(女屋泰之)=朝日新聞2026年2月25日掲載