高野秀行「未来国家ブータン」書評 他の国とはまるで違う進化
評者: 松永美穂
/ 朝⽇新聞掲載:2012年05月06日
未来国家ブータン (集英社文庫)
著者:高野秀行
出版社:集英社
ジャンル:一般
ISBN: 9784087454543
発売⽇: 2016/06/23
サイズ: 16cm/324p
未来国家ブータン [著]高野秀行
昨年の国王夫妻の来日以来かなりのブームを巻き起こしているブータン。ヒマラヤの小国なのに国民の幸福度は世界一ともいわれ、そのユニークな国情に注目が集まっている。当然、さまざまな「ブータン本」が世に出ているが、辺境探検の第一人者が書いた本書は抜群のおもしろさだ。
ブータンの生物資源を調査するという建前と、雪男など未知の生物について情報収集したいという本音を胸に、著者は首都周辺の「都市部」だけでなく、山間の少数民族の村にまで旅をする。高山病や下痢に悩まされたりしながら四千メートル級の峠も徒歩で越え、行く先々で興味深い伝承を記録し、その土地ならではの風習に触れて、「世界の他の国とはまるでちがう進化を遂げている」ブータンの、知られざる一面を伝えてくれている。ブータンでは若者が進路を決める際の選択肢は多くない。意外にもそれが、迷いなく生きられる背景となっているという指摘に、「うーむ」と考えさせられた。
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集英社・1575円