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北方での異文化接触の実態描く

黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志 著者:渡辺 京二 出版社:洋泉社 ジャンル:歴史・地理・民俗

価格:3132円
ISBN: 9784862485069
発売⽇:
サイズ: 22cm/353p

【大佛次郎賞(第37回)】ロシア人はどのようにして日本の北辺を騒がせるようになったのか。ロシア・アイヌ・日本の三者の関係をとおして、北方におけるセカンド・コンタクトの開始…

評者:四ノ原恒憲 / 朝⽇新聞掲載:2010年04月11日

黒船前夜ーロシア・アイヌ・日本の三国志 [著]渡辺京二

 歴史研究に「if」は禁物だが、歴史物を読む大きな楽しみの一つに、「もし、あの時、違う方向だったら」との思いにふけることがある。その延長線上で「今」をふり返り、「未来の可能性」を考えることは、あながち無意味とも思えない。
 日本開国の直接のきっかけは1853年の「黒船来航」だが、その100年ほど前から、アイヌの地である北海道、千島、樺太などをはさんで、ロシア人と日本人の接触が相次ぐ。正式な通商を求めるロシア船も日本を訪れはじめた。それはまた、今でも日ロ関係ののど元に刺さる「北方領土問題」の原点の時期でもある。
 この鎖国状態の扉をたたく異文化接触の実態を、文献資料を元に通説に数多く疑問を呈しながら、ロシア、アイヌ、日本の「三国志」として描いた本書は、そんな「if」を考えさせるヒントに満ちている。
 1792年のラクスマン、1804年のレザノフの通商や国交を求めた来航に、幕臣、民間、いや老中の間にも、世界情勢に鑑(かんが)み、国を開く機運が一時盛り上がっていたという。人々は、太平の眠りをむさぼっていたばかりではない。逆に「日露戦争」の危機すらもあった。
 著者の作品に、幕末、明治初期に日本を訪れた多くの外国人の手記をもとにした『逝きし世の面影』がある。近代的史観では、「ただ遅れていた」と無視されてきた当時の日本人がもっていた優しさ、洗練、親切、倫理観などの「美徳」を、現代によみがえらせた。我々は何を失ったのか。今もロングセラーとして読み継がれる。
 本書でも、そんな「美徳」は様々な個所で顔を出す。中央の権力者を恐れず、異論を堂々と具申する松前奉行。ロシア船に捕らえられながら、日ロの友好のためならと、進んで捕虜になり、結果両国の橋渡し役となる豪商、高田屋嘉兵衛の侠気(きょうき)。ロシア人を驚かせた、人々の思いやりやユーモア。日ロ双方とも対等にわたりあったアイヌの人々の自立心と、豊かな自然観……。再び思う。失ったものは何か、と。せんない問いだが。
 評・四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 洋泉社・3045円/わたなべ・きょうじ 30年生まれ。日本近代史家。『北一輝』『神風連とその時代』など。