木村草太「自衛隊と憲法」書評 組織のそもそも 明快に議論
ISBN: 9784794970350
発売⽇: 2018/05/02
サイズ: 19cm/206p
自衛隊と憲法 [著]木村草太
安倍内閣の支持率はこのところ低めで、改憲(自衛隊の憲法明記)の発議に向けた動きを加速できる態勢にあるようには見えない。とはいえ、発議に備えるに越したことはなく、自衛隊がそもそもどのような組織かを理解することは発議の有無に関わらず大事である。
自衛隊をめぐっては様々な意見が飛び交っている。「自衛隊は違憲だ(合憲説は欺瞞だ)」、「自衛隊は大きな武力をもっているから事実上軍隊だ」、「国際法は集団的自衛権の行使を認めており、日本も当然それに従うべきだ」……。
こうした意見や誤解に対して、本書は明快な議論で応じる。個別的自衛権は、国民の生命・自由の保護を国家に命じる13条を根拠として正当化される。自衛隊は9条2項が禁止する軍隊ではなく、72条の規定する「行政各部」の一つ、財務省などと並ぶ行政組織である。国際法が容認する権利であっても、あえてそれを行使しないことは国際法に反しない……。
政府・自民党は自衛隊の明記によって「なにも変わらない」との説明を繰り返し、自衛隊の任務を意図的に曖昧にしている。この姿勢を著者は「あまりに卑怯」と呼ぶ。少なくとも、その任務が個別的自衛権の範囲に限定されるのか、それとも他国のための武力行使も含まれるのかについては明確にして国民の意思を尋ねるべきである。明記によって、自衛隊は行政組織から憲法が直接定める特別の組織に変わる。とすれば、この組織をどう統制するか等について憲法上の規定が必要になるが、それすらも示されていない。
個別的自衛権を正当化する根拠を13条のみに求めてよいかについては異論もありえよう(国民の生命・自由の保護という理由は集団的自衛権をも正当化しないか)。とはいえ、本書は、混迷しがちな改憲論議にあって、問題を整理して考えるための導きの糸になる。合間を縫ってでも目を通してほしい一冊である。
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きむら・そうた 1980年生まれ。首都大学東京教授(憲法学)。著書に『キヨミズ准教授の法学入門』など。