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子どもたちが自分の先生だった 「かこさとしのひみつ展」ゆかりの川崎で

『だるまちゃんとかみなりちゃん』福音館書店刊  Illustrations ©Kako Research Institute Ltd.

 「はからずも回顧展になってしまったのですが、今回の企画は昨年の夏から進めていて、かこ先生ご自身も、たいへん喜んでくださっていたんです」。そう話すのは川崎市市民ミュージアム学芸員の永藤友美さんだ。「というのも、ここ川崎はかこ先生と深いご縁がある土地だからです」

『だるまちゃんとてんぐちゃん』福音館書店刊 Illustrations ©Kako Research Institute Ltd.

 かこさんは、1926(大正15)年生まれ。19歳で敗戦を迎えた。幼い頃から絵を描くことと飛行機が大好きな「ヒコー少年」で、将来は航空士官になることを一途に夢見ていたが、近視のため軍人にはなれず。東京大学工学部に入学したことで結果的に命拾いをしたのだが、同じように軍人志望だった友人の多くが死んでしまった中、ひとり生き残ったことで自らを「死にはぐれ」と責め続けた。また、敗戦を機に態度を変えた大人たちにも失望、戦後は空虚な気持ちを抱えることとなった。

 そんなときに出あったのが演劇だ。中でも児童劇にやりがいを見いだすようになり、やがてそこの仲間のひとりに誘われたことがきっかけで、川崎で、セツルメントのこども会の活動に熱心に取り組むようになっていった。

 セツルメントとは、地域住民の生活向上のための助力をする社会事業およびその施設のこと。戦後の川崎では、東大生によるセツルメント活動が盛んに行われていたという。そして、古市場(現在の川崎市幸区古市場)には大企業の工場で働く労働者たちが集住し、その労働者家庭の子どもたちが大勢セツルメントにやってきていたのだ。

 かこさんは大学を卒業すると、化学メーカーの会社員として働きながら、その合間を縫って、セツルメントで、子ども会の活動に打ち込むようになっていった。紙芝居や幻灯の作品を作っては子どもたちに披露し、時には厳しい反応を浴びせられながらも彼らを楽しませることに労をいとわず、それが後の絵本作家としての原点になったと言われている。

 「先生は当時のことを振り返っては、『子どもたちに教えてもらった』『子どもたちが自分の先生だった』とおっしゃっています。子どもたちは正直ですから、面白いものには夢中になるけれども、少しでもつまらないと思ったら見向きもしない。『これは自信作だ』と意気込んで持参した紙芝居でも、面白いと思わなければ、目の前から一人減り、二人減りしてとうとういなくなってしまうそうなんです。後で彼らに『何しに行ってたんだ?』と聞くと、『多摩川にザリガニを取りに行ってた』と(笑)。そんなエピソードもお会いしたときに伺ったんですが、子どもの関心が何に向いているのかを知るのが、いつも作品を作りながらの闘いだったようですね」

『どろぼうがっこう』偕成社刊 ©1973,Satoshi KAKO

 かこさんは、子ども会の活動で得た経験を糧として、1959(昭和34)年、『だむのおじさんたち』で絵本作家としてデビューする。昨年は『だるまちゃんシリーズ』刊行50周年、来年はデビュー60周年となる。

 「今回の見どころのひとつは、このセツルメントの展示があることです。当時のセツルメントの子どもたちが描いた絵も出品するのですが、かこ先生がずっと大事にご自身で保管されていたものなんです。川崎で開催するということで、今回特別に許可をいただいて現物を展示します。ほかにも、子どもたちとかこ先生が一緒に描いたスケッチも見ていただけますし、並行して行うイベントのひとつ、幻灯上映会では、当時の川崎セツルメントの活動で制作された作品を上映します。もちろん今のお子さんたちにも見ていただきたいのですが、当時のセツルメントに通っていた子どもたち――まだお元気な方もたくさんいらっしゃると思いますので、来ていただけたらうれしいですね」

 かこさんは、物語絵本だけでなく、科学絵本、知識絵本、遊び考など、さまざまなジャンルの作品を世に送り出した。それらの幅広い世界を、通底する4つのキーワードで分類しながら満遍なく紹介していくのも、今展のもうひとつの見どころだ。

 「『見る』『知る』『学ぶ』『食べる』という4つのテーマに分けて、原画や複製画を200点以上展示します。『見る』というのは、『見つける楽しみ』ですね。かこ先生の絵は『だるまちゃんとてんぐちゃん』などにも出てくるのですが、帽子がいっぱい出てくる場面、うちわがいっぱい出てくる場面など、図鑑的な絵がひとつの特徴になっています。先生はそれを『ものづくし』と呼んでいらっしゃいましたが、子どもたちはそのページを見たら、『あ、これ知ってる』という反応を示しながら、知っているものから知らないものへと関心を示していく。その世界を味わってもらおうと図鑑的な絵ばかりを集めた展示をします。

『からすのパンやさん』偕成社刊 ©1973,Satoshi KAKO

 次に『知る』ですが、これは断面図ばかりを集めた展示です。先生の本には断面図を見せたものがたくさんあります。断面といってもいろいろあって、家を切ったり、『地下鉄のできるまで』という作品では、地下でどんな工事が行われているか、普段見られないところを切って見せています。これもまた、子どもたちの発見につながるんですね。

 そして『学ぶ』は過程の絵を集めています。たとえば『はははのはなし』という本では、虫歯になったらこうなるんだよ、怖いんだよ、と歯が溶けていく様子が描かれています。この先どうなるかを見ることは『学び』につながるということで、この柱を立てました。

 最後の『食べる』は、先生の本には『食べる』場面が描かれたものも多いので、『おいしそうだな』と追体験をして楽しんでいただき、健康的な生活を送るために「食べる」ことがいかに大事かということを改めて考えていただければ……と思っています」

『たべもののたび』童心社刊

 さらに今回見逃せないのが、会期中に並行して行われる関連イベントの数々。『太陽と光しょくばいものがたり』に出てくる「光しょくばい」の実験をする「光しょくばいワークショップ」や、絵本『からすのやおやさん』を使って親子で経営について学ぶ「『からすのやおやさん』で経営のおはなし」。ほかにも絵本のお話を遊ぶ、ストーリーオリエンテーリング「『からすのパンやさん』おつかい大作戦!」のほか、かこさんが作った「だるまちゃん音頭」をみんなで踊る「だるまちゃん音頭をおどろう!」などがある。要予約のものも多いが、どれも「かこワールド」を体感できるものばかり。こちらもぜひチェックしたい。

 「かこ先生は、かつて時代に流されるままに『軍人になるんだ』と思ったことをひどく悔いていらっしゃいました。今から未来を生きる子どもたちには、どんな時代であっても流されないで、自分で正しい判断力を身につけてほしいと願って、それを作品の中には常に込められていたと思います。どんな困難にぶつかっても、自分で考えて自分で答えを出して乗り越えることを大切にする。お子さんも親御さんも、まずは素直に絵本の世界を楽しみながら、そんな先生の思いを感じていただけたらうれしいですね」