哲学者の柄谷行人さんが選書を担当した特設コーナー「柄谷行人書店」が、東京都豊島区のジュンク堂書店池袋本店内に開店中だ。柄谷さんが「考える糧にしてきた」本が並ぶ。
同店では2003年から企画「作家書店」を始め、谷川俊太郎さん、大江健三郎さんらが「店長」を務めてきた。今回は、02年にブックガイド『必読書150』を浅田彰さんや島田雅彦さんらと刊行した柄谷さんに、現在読むべき教養書の選書を依頼した。
書棚に並んだのは、約700冊。『定本 日本近代文学の起源』『探究Ⅰ・Ⅱ』『世界史の構造』など柄谷さん自身の著作、朝日新聞書評委員として採りあげた本、そして、「僕の本に貢献した」古今東西の古典だ。
デビュー作で論じた夏目漱石、近年の著作まで直結するマルクスやカント、同時代を生きた中上健次らの著作はもちろん、科学者・神学者の著者が霊的体験を書き残した『スウェーデンボルグの霊界日記』のような本まで、その興味は幅広い。柄谷さんは、「10代から本を読んできて、そのときどきで影響の濃淡は変わってくる。ただし、一過性ではなく、繰り返し考える材料になった本を選んだ」。哲学者柄谷行人の頭の中をのぞく楽しみが味わえる。
蔵書をもとに選書をしてみて感じたのは、入れたいと思った本の品切れや絶版の多さだという。「プラトンのような古代ギリシャの古典は、本当によく残っているなと感心した」
歴史上、書物は様々な受難にさらされてきた。印刷技術の発明以前に原本が失われたり、権力によって禁書にされたり。「しぶといやつが古典だよ」と柄谷さん。「一度死んでも、また戻ってくる。ここにある本も、そうやって生きてきた本でしょう」
会場は同店6階で、来年1月の半ばごろまでの予定。8月6日まで、丸善丸の内本店にも約150冊の規模で「出張版」が出店中。選書リストは、ジュンク堂などが運営するネット書店「honto」のサイト(https://honto.jp/cp/netstore/2018/karatani-kojin.html)で見ることができる。(滝沢文那)=朝日新聞2018年8月1日掲載
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