「がいなもん 松浦武四郎一代」書評 「途方もない」男が見た蝦夷地
評者: 齋藤純一
/ 朝⽇新聞掲載:2018年08月11日
がいなもん 松浦武四郎一代
著者:河治和香
出版社:小学館
ジャンル:小説
ISBN: 9784093865104
発売⽇: 2018/06/08
サイズ: 20cm/317p
がいなもん 松浦武四郎一代 [著]河治和香
この小説は、その生涯が辿られている独立不羈の人物に魅力がある。武四郎は、伊勢松坂に生まれ、幕末に蝦夷地を6度(樺太は2度)にわたって探訪・調査した。「神足」の歩行術を活かして、最晩年には大台ケ原も踏破した。
隠居の武四郎が折に触れて絵師の豊に聞かせる物語が、本書を編む縦糸である。印象に残るのは、和人がアイヌに加えた数々の不正に彼が示した憤りである。松前藩の支配は、男たちに労働を強い、女たちを恣にし、言葉や文化を蔑み、家族を引き裂いて生活を根底から破壊した。彼の描いた『蝦夷大概之図』には、「藩主はすこぶる権力を弄び」「人口は日々失われていく」という意の漢詩が付されている。
北海道は今年命名後150年目を迎えているが、その歴史には先住民に対する植民地支配が影を落としている。この機に「がいなもん」(途方もない)武四郎が何をどう見たかも併せて顧みたい。