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心揺さぶられた33年分の541冊 松山巖さん「本を読む。 松山巖書評集」

『本を読む。―松山巖書評集』を書いた松山巖さん=2018年7月24日、東京・六本木の自宅、フリー倉田貴志撮影

 大学の建築学科を出て、親友と建築事務所を作ったが、なかなかうまくいかない。もの書きになろうと思っていた1983年、新宿の飲み屋で知り合った「カメラ毎日」の西井一夫編集長(故人)から、書評を書くようにと1冊の本を手渡された。
 『學藝諸家 濱谷浩写真集』。学問や芸術を追求する諸家、つまり藤田嗣治、鈴木大拙、湯川秀樹、高村光太郎、井伏鱒二ら91人を45年かけて撮った本だ。詩人・堀口大学を写した4枚の中には、堀口の娘の子ども時代と、花嫁姿の写真がある。
 「こんなに時間をかけて撮るんだ、とびっくりしましたね。一人一人はともかく、全体としてみると人間って面白いもんだなって。これを気どった文章で評することは僕にはできないと思って、素直に書きました」
 西井さんからは、翌月も、その翌月も、書評の依頼が来た。初の著書である都市論『乱歩と東京』が日本推理作家協会賞を受け、読売新聞の読書委員に。
 その後、毎日、朝日の書評委員になり、読売の委員を一昨年まで長年つとめるなど、新聞に書評を書き続けてきた。
 「はじめは都市や建築、美術の本が中心でしたが、だんだん崩れちゃって、何でもやるようになりました」
 歴史や評論に加え、小説が増えていく。安岡章太郎や井上ひさし、津島佑子、又吉直樹に、パトリック・モディアノ、ギュンター・グラス、ミシェル・ウエルベックらも取り上げた。雑誌での書評もあわせて、この本には541冊分が収められている。33年間の定点観測的な「ブックガイド」ともなった。
 本にまとめたのは、昨春、大腸がんの手術を受けた後、気力が湧かず、書いてきた書評を再読してみたらと思ったからだ。
 「気力も戻ってきたけれど、友だちがすごく喜んでくれるのに驚いてます。書評している本を読みたいとか、図書館で借りて読んでいるとか」
 松山さんはいつも、本から受けた印象をはっきり書く。
 「こんな視点があるのかっていう本や、笑っちゃう本も含めて、心揺さぶられた本を取り上げてきました。『學藝諸家』はいいスタートでしたね」 (文・石田祐樹 写真・倉田貴志)=朝日新聞2018年8月11日掲載