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稀見理都「エロマンガ表現史」、黒沢哲哉「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」著者2人に聞く

黒沢哲哉「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」(左)、稀見理都「エロマンガ表現史」(右)

 日本の性的文化について考察した書籍が今年3月、相次いで自治体から「有害図書」に指定された。「エロマンガ表現史」と「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」の2冊で、18歳未満への販売が禁じられるほか、図書館などでも取り扱われにくくなることから、研究書まで有害指定するのは行き過ぎだとの批判が起きている。著者はそれぞれ、どんな思いを本に込めたのか。有害指定されたことについての受け止めとともに聞いた。(聞き手・加藤勇介)

「エロマンガ表現史」

 2017年11月発行。392ページ。エロ漫画や一般向け漫画におけるお色気シーンの描き方の変遷を紹介。作家へのインタビューも。3月30日に北海道が有害図書に指定したが、指定を決めた有識者会議が議事録を残していないことが判明した。

議事録なし、問題点わからぬまま ライター・稀見理都(きみりと)さん

 漫画の研究は数多いのに、エロ漫画においては先行研究がほとんどありませんでした。エロの世界でも作り手は様々な表現を試みてきた。創作の歴史をないことにするのはおかしい。そんな思いもあり、この本を書きました。苦労したのは、アーカイブやデータがほとんどないこと。古本屋を巡ってネットオークションも活用しました。
 漫画のエロ表現には社会が如実に映し出されています。例えば、エロ漫画では2000年以降、女性が自ら女性器を広げる表現として「くぱぁ」という擬態語が多用されるようになりました。セックスの場面はかつて男性上位で描かれたのが、女性上位のシチュエーションが増えたためです。社会の意識変化の表れと捉えられます。
 お国柄も垣間見えます。日本のエロ漫画は海外でも人気ですが、「くぱぁ」「らめぇ」「ドピュー」など多くの擬音が使われていて、翻訳する際に相当する言葉が見当たらないことが多い。性にまつわる擬音表現もかなり独特で豊富なようなのです。
 こうした表現が生まれた背景や歴史を記すのですから、成人漫画の引用は私の本に欠かせない要素でした。医学書に裸体のイラストが載ったり、春画の研究書に春画が載ったりするのと同様で、私は有害だとは考えていません。
 ただ、議論していただくのは大いに賛成です。その意味で北海道の有識者会議が議事録を残さなかったことが非常に残念です。結局何が問題と判断されたのか今もわからない。とても深刻な問題だと考えています。

「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」

 2017年4月発行。320ページ。全国各地にあるエロ本自販機をカラー写真で紹介するほか、業界幹部へのインタビュー、自販機の歴史解説など。3月23日に滋賀県で有害図書指定を受けた。

蒸し返し嫌った? 行政に無力感 ライター・黒沢哲哉さん

 エロ本自販機は、いま60歳の私の世代は誰もが街中で見かけたことのある大きな存在でした。それが急速に消えつつあるのに、記録が全く残っていない。高尚な目的があるわけではないが、記しておく価値はあると思いました。
 約3年半、エロ本自販機を探して日本全国500カ所ほどを回りました。ネット上であそこにあるらしいとの情報を仕入れ、グーグルのストリートビューで周辺をくまなく探し、「いかにも」なトタン製の小屋を見つけて現地に行ったら卵の無人販売所だったということもありました。
 自販機は峠の山道など人里離れた場所に多く、主な顧客はネットに縁遠い高齢者の方たちです。ネット時代の今、わざわざ訪れる子どもはまずいません。しかも本に収めたのは外観写真とエロ本自販機業界を考察した文章がほとんど。この本がなぜ青少年に有害なのか、なぜ青少年が感情を刺激されると思ったのか、逆に聞いてみたい。

黒沢哲哉さん
黒沢哲哉さん

 私の本を有害指定した滋賀県の議事録を確認すると、委員のおひとりが「サブカルチャー的なものであり有害とは言い切れない」と指摘をされているのですが、行政側が翻意を促していました。滋賀県は有害自販機をすべて撤去した自治体。「自販機の存在を蒸し返してくれるな」との意図が垣間見えました。
 北海道が議事録を残していない背景にも、行政が疑問視した本に委員がお墨付きを与えることが流れ作業と化している現実があるのではないかと感じます。どちらの自治体の対応にも無力感を覚えています。